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研究 | 栄養応答研究チーム

はじめに

我々は生まれてから死ぬまでほぼ毎日、食事をとります。あらゆる動物において、成長し老化していく過程において常に食事からの栄養を必要とします。我々の健康寿命は、食環境により大きく影響されます。食は栄養素として直接、あるいは腸内細菌を介して間接的に動物の代謝生理恒常性に寄与しますが、その詳しい分子機構の理解は立ち遅れています。当研究室では、食餌によって変化する各種栄養素や腸内細菌の生理機能を研究しています。また、発生・発達期に一過的に摂取する食餌が生涯にわたって健康状態に影響する機構も明らかにしようとしています。我々の研究では、寿命の短いショウジョウバエを利用し、生物の老化・寿命を規定する普遍的な食理学的メカニズムを解明します。

これまでの生物医学は、いかに病気を治すか、あるいは、病気にならないかということを目指してきたように思います。しかし、健康であることと病気でないことは、似ているようで違います。生物には本来的に健康になろうとする力があるように思います。我々が利用しているのは、寿命が2ヶ月と短いショウジョウバエです。ショウジョウバエは強力な遺伝学が利用でき、また研究室での飼育も安価で容易です。倫理的な問題も少なく、数をこなさなければならない寿命測定には最適です。生物の普遍的かつ基本的なメカニズムを知るには、シンプルな生き物を利用するのが最適です。

その他にも、アリや蚊、哺乳類の培養細胞を使った研究も展開しています。

複雑な生命現象を単純(かつ大量飼育が容易)なモデル動物を利用
健康寿命が食餌によって影響される仕組みを分子レベルで解明する

1. アミノ酸やその代謝が健康寿命を制御する機構の解明

三大栄養素の一つ、タンパク質の構成要素であるアミノ酸は、生物が生きていく上で欠かせない栄養素です。アミノ酸をたくさん摂取すれば身体が成長し、反対に摂取量を減らすと、寿命の延長や加齢に伴う病態の回復が可能であることが知られています。アミノ酸の体への影響は絶大ですが、その本質的なメカニズムは未だ十分に明らかにされていません。近年、タンパク質を構成する20種類のアミノ酸のそれぞれが、細胞にとって全く異なる作用を示すことが明らかにされてきました。しかし、一つの細胞内で起こることだけではなく、細胞同士、さらには臓器同士が連携することで可能になる、真の生物体内でのアミノ酸の作用についてはほとんど未解明です。

これまで我々は、アミノ酸の一種メチオニンが、腸にある幹細胞の活性化に重要であることを見出してきました(Obata et al., Dev Cell, 2018)。食餌中のメチオニンは腸でS-アデノシルメチオニン(SAM)に代謝されます。メチオニンはこのSAMを介して、腸幹細胞と栄養吸収細胞の両者に働きかけることで、栄養摂取に応じた腸のサイズ調節をおこなっていることが分かりました。また、SAM量は加齢に伴って増加すること、その増加を抑制することで、個体の寿命が伸びることも分かってきました(Obata and Miura, Nat Commun, 2015)。

アミノ酸にはメチオニンのように食餌から必ず摂取する必要のある必須アミノ酸と、生合成だけで十分賄えるため食餌から摂らなくても構わないとされている非必須アミノ酸があります。我々は非必須アミノ酸の一種であるチロシンにも着目して研究しています。これまでに、チロシンは脂肪組織のタンパク質合成や細胞成長シグナルを強力に制御することを見出しました。また、餌中タンパク質量が減少した場合に、体内チロシン量の欠乏を生物が認識することで生存適応応答が発動し、脂肪組織と脳の臓器連関によって摂食量を増加させることも分かりました(Kosakamoto et al., Nat Metab, In Press)。

このような、アミノ酸が持つ特異的な作用とそのメカニズムを明らかにすることは、食と切っても切れない関係にある生物の仕組みの本質を理解することにつながると考えます。我々は、ショウジョウバエ用に開発された人工合成培地を利用し、自由自在な栄養操作によってその本質に迫ります。

2. 発生期環境と腸内細菌が健康寿命に与える影響の解明

発生過程における栄養や環境ストレスが何らかの形で個体に記憶され、成体の生理的な状況や老化過程に影響する可能性が示唆されています。このような仮説はDOHaD(Developmental Origins of Health and Disease)と呼ばれ、発生期の環境により大人の生理機能や成人病を“プログラム“する機構があるとして、注目されています。しかしながら、DOHaD研究には、原因と結果の間にある長大な時間的ギャップがあるため、研究に大変時間がかかります。そこで我々の研究室では、ライフサイクルの短いショウジョウバエを利用することで、発生期の食餌環境によって健康寿命がどう影響するかを解析しています。遺伝学を駆使し、新規DOHaD機構の解明を目指して研究を進めています。

これまでに発生中の酸化剤摂取が腸内細菌組成を変化させ、寿命を延長する事が明らかになりました(Obata et al., Nat Commun, 2018)。この寿命延長の原因を代謝変化に着目して解析したところ、老化に伴うプリン体代謝産物(尿酸、アラントイン)の増加が抑制されることがわかりました(Yamauchi et al., iScience, 2020)。特にマルピーギ管(哺乳類腎臓尿細管)における腸内細菌依存的な炎症(Imd経路の活性化)がプリン体代謝産物の増加をもたらし、寿命短縮につながっていました。

腸内細菌は私たちの体の大部分を占めており、健康状態を左右します。しかし宿主の状態によってどのように腸内細菌が変化するかについては不明な点が多く残されています。我々は発生中の微弱な炎症(Imd/TNF経路の活性化)が腸内細菌組成を変化させ、成虫期の腸炎を誘発することを報告しました(Yamashita et al., Dis Model Mech, 2021)。宿主の炎症に応答して、腸内ではGluconobacter sp.が増加していました。本細菌種は、非感染性炎症モデルショウジョウバエにおいても増加していること、それが炎症を加速し寿命を短縮することを見出しました(Kosakamoto et al., Cell Rep, 2020)。特定の細菌種が個体の炎症状態や寿命を短縮させる機構はまだ分かっていませんが、細胞壁成分であるペプチドグリカンや鞭毛の違い、産生する代謝物の違いなどに注目してさらに研究を進めています。

3. 病原体媒介蚊における吸血を制御する分子機構の解明

〜 蚊は血の味をどのように味わい満腹になるのか?

デング熱および重症熱性血小板減少症候群(SFTS)などの疾患は、蚊やマダニなどの病原体媒介節足動物(ベクター)によって媒介される病原体由来の感染症であり、人間や動物に対して世界的に大きな脅威となっています。吸血行動は寄生虫やウイルス、細菌の効率的伝播の根源となる行動であるため、吸血を制御する分子基盤を解明することは重要な課題の1つです。宿主へと誘引された蚊は必ずしも吸血を開始する訳ではありません。蚊は血の味を感知して吸血に値するかの判断を下しています。そこで、私たちは、蚊がどのように血の味を味わい吸血を開始するのか(正の制御)、さらには、どのように満腹と感じ、吸血を停止するのか(負の制御)を明らかにすることを目指しています。正の制御の重要な因子として宿主の血液由来のアデノシン三リン酸(ATP)が古くから知られていますが、蚊がどのようにATPを受容しているかは長年の謎です。そこで、蚊の味覚に焦点を当て、ATP受容に関わる分子や神経を明らかにしようとしています。この際に、同じ双翅目昆虫であるショウジョウバエを活用して、ATP受容に関わる分子の探索を行うことに加え、血液に多く含まれるアミノ酸の受容に関しての理解も深めることを目指しています。また、吸血停止時に血液/ATP受容機構が負に制御される機構は完全に未知です。従来のプラス方向の機構に加えて、吸血停止というマイナス方向に働く行動の神経基盤を明らかにすることは、疑似的に吸血停止状態を誘導するなど、新たな切り口で蚊行動を操作するための重要な知見となることが期待されます。

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