BDRについてセンター長あいさつ
生命現象の階層と時間軸をつなぎ、「生きている」仕組みの理解から、健康寿命の延伸をめざす
ヒトをはじめ寿命を持つ生きものは、生まれる、育つ、産む、老いるというライフサイクルを経て、最終的に個体の終焉を迎えます。私たちの健康や老化を理解するためには、生まれてから死ぬまでの間にからだの中で何が起きているかを正確に知る必要があります。
「育つ」過程での健全な成長や、「老いる」過程での健康維持は、少子高齢社会を迎えた日本の重要な課題です。たとえば健康寿命を延ばすには、老いに伴うさまざまな疾患への治療法を開発するだけではなく、老化するとなぜさまざまな生命機能が損なわれ、健康状態のバランスが崩れてしまうのかを知ることが必要です。しかし、個体の成長や老化のように、長期間にわたって変化する生命現象についての知見は、まだ十分ではありません。
理化学研究所生命機能科学研究センター(理研BDR)は、個体の発生・誕生から死までのライフサイクルの進行を、分子・細胞・臓器の連関による調和のとれたシステムの成立とその維持、破綻にいたる動的な過程として捉え、個体の一生を支える生命機能の理解をめざします。この目的のため、生命科学、医学、物理学、計算科学、化学、工学など多岐にわたる分野の研究室が、さまざまな切り口で多様な生命現象の解明に取り組んでいます。
現在の生命科学に求められているブレークスルーの一つは、生命の階層を越え、時間軸に沿った変化を捉えることで、生命機能の維持・低下の要因を特定する新たな方法論の開発です。このようなブレークスルーは、一人一人の研究者の生命を探求する真摯な態度と、飽くなき好奇心なしには実現できません。理研BDRには多彩な研究者が集い、仮説検証型からデータ駆動型までそれぞれのスタイルを極められる研究環境があります。この利点を最大限に活かし、「生きている」仕組みの理解から、再生医療や診断技術開発などへの応用、健全な成長・発達や健康寿命の延伸に貢献する生命科学の発展を目指します。
西田 栄介
センター長