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レム睡眠を引き起こす2つの遺伝子

2018年10月16日

ヒトは睡眠をとる。なぜ眠るのかはわかっていないが、睡眠は生きていく上で欠かせないものである。睡眠にはレム睡眠とノンレム睡眠があり、哺乳類と鳥類にのみ見られるレム睡眠は、記憶の定着などに重要であると言われているが、レム睡眠の制御機構は分子・遺伝子レベルではほとんどわかっていない。

理研BDRの丹羽康貴基礎科学特別研究員(研究当時)(合成生物学研究チーム、上田泰己チームリーダー)らは、個体レベルの遺伝学的手法を駆使してレム睡眠に必須な2つの遺伝子を発見し、レム睡眠がほぼなくなっても生存するマウスの作製に初めて成功した。本成果は科学誌Cell Reportsに2018年8月29日付で掲載された。

TrkA-TeNTマウスで減少した睡眠時間は、TrkA-TeNT; ChAT-tTRマウスで回復した。

過去の様々な実験の結果から、アセチルコリンが覚醒やレム睡眠の誘導に重要であることが示唆されている。コリン作動性の脳領域が損傷すると睡眠障害が引き起こされたり、レム睡眠中の脳幹ではアセチルコリンが大量に放出されたりすることがわかってきたからだ。しかし、神経回路の複雑さゆえに、コリン作動性の神経系が睡眠に必須なのかどうかはわかっていない。さらに薬理学的解析によってムスカリン型アセチルコリン受容体がレム睡眠に重要であることは示唆されていたが、遺伝学的解析によって評価することは難しかった。

丹羽らは、まず睡眠調節に重要であると言われている前脳基底部および視索前野にある神経の分類を試みた。前脳基底部および視索前野を含む脳や神経系の49部位についてマイクロアレイ解析を行い、前脳基底部および視索前野で有意に発現が高く、睡眠の調節に関与している可能性が高い遺伝子として、TrkAおよびNgfrを同定した。TrkA陽性神経細胞の機能を解析するために、TrkA発現細胞特異的にシナプス小胞放出を阻害する二重トランスジェニックマウスTrkA-TeNTマウスを作製した。TrkA-TeNTマウスではTet-offシステムの下流で破傷風毒素が発現し、TrkA陽性神経細胞からの神経伝達が抑制される。TrkA-TeNTマウスの睡眠量を呼吸パターンによる非侵襲的自動睡眠表現型解析法(Snappy Sleep Stager(SSS)法)を用いて解析したところ、総睡眠量が対照マウスと比較して大きく減少した。この睡眠時間の減少は暗期の睡眠時間の短縮に起因していた。

前脳基底部および視索前野におけるTrkA陽性神経細胞の多くはコリンアセチルトランスフェラーゼ(ChAT)を共発現するコリン作動性神経であることが知られている。一方、TrkAの発現は脳内の他の領域の非コリン作動性神経でも見られたため、TrkA-TeNTマウスで見られた睡眠時間の短縮に関与するTrkA陽性神経細胞を同定するために、tTAリプレッサーとなるTetエフェクターtTRを設計した。tTRはショウジョウバエの遺伝学で用いられるGal4およびGal80と同じ様式で作用し、tTAとtTRの両方が発現したときにのみ、tTA活性が抑制される。そこで、ChAT陽性細胞でtTRを発現するノックインマウスTrkA-TeNT; ChAT-tTRマウスを作製し、睡眠表現型を解析すると、TrkA-TeNTマウスで見られた睡眠時間の短縮がTrkA-TeNT; ChAT-tTRマウスでは見られなくなった。つまり、TrkA陽性コリン作動性神経が睡眠時間の短縮に関与していることが示唆された。

睡眠調節に重要な役割を果たすTrkA陽性コリン作動性神経におけるコリン作動性受容体の機能を明らかにするために、神経型ニコチン型アセチルコリン受容体(11種類)およびムスカリン型アセチルコリン受容体(5種類)のノックアウトマウスをトリプルCRISPR法を用いて作製し、睡眠表現型の解析を行ったところ、ムスカリン性アセチルコリン受容体、Chrm1およびChrm3のノックアウトマウスが、TrkA-TeNTマウスで見られたような睡眠時間が短縮する表現型を示した。特に、Chrm1ノックアウトマウスはレム睡眠とノンレム睡眠の両方が減少するのに対し、Chrm3ノックアウトマウスはノンレム睡眠のみが著しく減少していた。さらに、Chrm1/Chrm3二重ノックアウトマウスを作製して睡眠量を解析すると、レム睡眠がほとんど検出されなかった。以上のことから、ムスカリン性アセチルコリン受容体遺伝子Chrm1およびChrm3が、睡眠量調節、特にレム睡眠を引き起こすために不可欠であることが明らかとなった。

Chrm1ノックアウトマウス、Chem3ノックアウトマウスおよびChem1/Chrm3二重ノックアウトマウスにおける睡眠量の変化

「今回の研究で、レム睡眠に必須の受容体の遺伝子が同定できました。これらの遺伝子を標的とすることで、レム睡眠を調節する新たな薬剤の開発が期待できます。」と上田チームリーダーは語る。「今回作製したChrm1/Chrm3二重ノックアウトマウスは、世界で初めて確認されたレム睡眠がなくなっても生きている個体です。今後このマウスをモデルマウスとして、レム睡眠の意義や必要性が解明できるのではないかと考えています。」

高橋 涼香(BDR・広報グループ)


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