1分子蛍光イメージングによるプロテオーム解析のために |理化学研究所 生命機能科学研究センター(BDR)

1分子蛍光イメージングによるプロテオーム解析のために 研究成果

細胞に含まれるタンパク質の種類や量は、その細胞の環境や状態によって変化する。細胞がウイルスに感染したり、がん化したりするときには、細胞内のタンパク質も変化しているのだ。そこで、細胞に含まれるタンパク質を蛍光標識し、その変化から細胞の状態を予測する取り組みが広く行われている。しかし、その時利用したタンパク質の標識方法は、細胞に含まれるすべてのタンパク質を標識できているのだろうか。

理研BDRの谷口雄一ユニットリーダー(細胞システム制御学研究ユニット)らは、1分子蛍光計数法を用いて蛍光標識の均質性を測定する方法と、1細胞プロテオームで平均71%が標識されるような標識法を開発した。本成果は科学誌Bioconjugate Chemistryに2018年7月5日付で掲載された。

図1.タンパク質の標識均一性の測定方法。(A)アビジンを固着したスライドグラスに蛍光標識したタンパク質分子を結合させ、1分子蛍光顕微鏡で観察する。(B)得られた蛍光強度のピークからはタンパク質分子が複数の色素で標識されていることがわかる。

細胞内のタンパク質を網羅的に解析するプロテオーム解析には、感度が高いことや定量できることが必要である。現在は主にポリアクリルアミドゲル電気泳動法やキャピラリ電気泳動法、二次元電気泳動法などが用いられているが、ゲルで分離をする必要があり、感度に限界があるため1分子レベルでの解析には適用できなかった。一方、バイオイメージング分野では、タンパク質を蛍光標識することによって1分子レベルで検出することができている。特に谷口らは「PISA顕微鏡」という広視野の1分子観察を可能にする顕微鏡を開発してきた。この技術をプロテオームに転用すれば、蛍光色素によるタンパク質の非特異的標識によって、タンパク質を1分子レベルでの解析が出来るのではないだろうか。しかし、アミノ酸の組成や生化学的性質が全く異なる複数のタンパク質の集団を標識した時に、個々のタンパク質分子が非特異的に、均一に標識されているのかどうかについては全くわかっていなかった。

そこで、谷口らは、まず蛍光標識されたタンパク質の標識均一性を1分子レベルで評価する方法の開発を目指した。スライドグラスをアビジンでコーティングし、ビオチン化された蛍光標識タンパク質分子を結合させたものを、広視野1分子蛍光顕微鏡を用いて蛍光スポットを計数することによって標識占有率(labeling occupancy; LO)を計算した。標準的なプロトコルでBSAを標識したものではLOは38%であった。この時、各蛍光スポットにおける蛍光強度は複数のピークを示し、レーザー照射による段階的な光退色が観察されたため、蛍光スポットの蛍光強度のピーク数からそのスポット内のタンパク質分子に結合している蛍光色素数を得られることがわかった。

次に、様々な標識条件を検討することで、BSA標識時のLOの改善を試みた。標準的なプロトコルに対して、タンパク質還元に関与するDTT(1〜10mM)、変性に関与するSDS(0.1〜1%)、および可溶化に関与するTween20(0.1〜1%)の組み合わせと、両性イオン性界面活性剤である3-[(3-コラミドプロピル)ジメチルアンモニオ]プロパンスルホネート(CHAPS)の添加の影響を検討したところ、全てを最大の濃度で添加し、さらにCHAPSも添加した場合にLOが82%に達した。この時、各蛍光スポットの蛍光強度を解析すると、蛍光色素が均一にタンパク質分子に結合していることが示唆された。

こうして得られた最適化標識プロトコルを用いて、HeLa細胞の溶解液から得られたプロテオームサンプルの標識化均一性について検討した。SDS-PAGEによって分離される主要バンド(16、23、55および120kDa)やそれを含む範囲(19–25、25–32、32–42、42–54、54–69、69–97、97–136および136–226 kDa)で分画して解析すると、分子量が大きくなるに従ってLOが高くなる傾向があった。分画せずに全プロテオームサンプルについてLOを測定すると、平均72%であった。分子量が大きくなるに従ってLOは増加する傾向があるが、これは蛍光色素が結合するタンパク質分子内のリシン残基の数に依存すると考えられる。

図2.(A)標識法の条件検討を行い、最適化標識プロトコルを開発した。(B)そのプロトコルでHeLa細胞由来のプロテオームを標識すると、平均72%が標識されていた。

「従来の標識法では均一に標識できていると考えられていましたが、実際には偏りがありました。今回の研究で、1分子レベルで超高感度のプロテオーム解析を行う基本的な方法論を確立することができました。」と谷口ユニットリーダーは語る。「今後は装置や解析に関わる技術革新が進み、高感度プロテオーム解析が普及していくと考えています。1細胞レベルでのプロテオーム解析が可能になれば、細胞内にごくわずかに存在するタンパク質の変化による疾患の早期診断や、病原性の細胞を超微量の検体から検出・同定することが可能になります。」

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関連リンク

掲載された論文 Extending Single Molecule Imaging to Proteome Analysis by Quantitation of Fluorescent Labeling Homogeneity in Complex Protein Samples
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