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運命が先か、かたちが先か、それが問題だ

2019年10月11日

発生では、細胞を分裂させて細胞数を増やし、それぞれの細胞が神経、筋肉、表皮などへの特定の運命を獲得し、その後に特有な細胞の形態に分化して様々な器官が形作られる。「分化」によって細胞の性質がいったん決まり、その「運命」に従って特有の形態を獲得するのが発生の一般的なしくみである。運命がかたちよりも先なのである。 しかし組織の形状によって細胞の運命が決まるという逆向きの経路がある事が新たに発見された。

近藤武史特定助教(京都大学大学院生命科学研究科、元理研 基礎科学特別研究員)と林茂生チームリーダー(理研BDR形態形成シグナル研究チーム)は、ショウジョウバエ胚の気管前駆細胞が気管を形成する際には、一度形成した管状構造を維持して形態形成を進めるために、管状になった組織の形状に従ってtrhの発現が維持されるポジティブフィードバック経路が働いていることを明らかにした。本成果は科学誌eLifeに2019年8月23日付で掲載された。

細胞境界をGFPで標識した胚のタイムラプス撮影による気管陥入の様子(XY:平面像、YZ, XZ:断面像。陥入開始時を0分として経過時間を示す)。左:正常胚(コントロール)では、陥入した気管は構造を維持して更に分岐、進展を続ける。右:trachealess (trh)変異体ではいったん出来た陥入構造は消失して表皮に戻る。200分を越えると隣接した部位から体節間の溝構造が出現する。

ショウジョウバエの気管は、胚の外胚葉にある気管前駆細胞が胚の内部に折れ曲がり陥入することで形作られる*1,2。陥入することでシート状だった気管前駆細胞から管状の気管が形成されるのだ。では、シート状の組織のどの部分を陥入させて管状組織を作るのかは、どうやって決められているのだろうか。今までの研究では、シート状の細胞の一部に気管を作る運命の細胞が分化し、その分化した細胞が陥入して管状の組織を形作ると考えられてきた。この気管への細胞の分化の鍵を握っているのがtrachealess(trh)遺伝子である。シート状の気管前駆細胞の中でtrhを発現した細胞が陥入し、気管を構成するのだ。しかし、今回の研究で近藤らが詳細に観察を行うと、陥入前のtrh発現細胞の数と、陥入後にtrhを発現している気管構成細胞の数では、陥入前のtrh発現細胞のほうが多く、trhを発現したが陥入しなかった細胞はシート状の表皮にとどまったまま余剰な細胞としてtrhの発現をやめることがわかった。では、trhを発現した細胞の中で管状の気管を形成する細胞と、シート状の表皮となる細胞は、どのように制御されているのだろうか。

trh変異体の後期胚においては気管構造が全く形成されないことから、trhは気管形成のマスター遺伝子であり、欠損によって陥入が発生しなくなると考えられてきた。しかし、近藤らが1細胞解像度での解析を行うと、trh変異体の予定気管領域でも陥入が起こるが、陥入した部分が徐々にもとのシート状へと戻っていく驚くべき様子が観察されたのだ。つまり、trhは予定気管領域の陥入に必要なのではなく、陥入した予定気管領域が管状にとどまって気管を形成するために必要な遺伝子であるということだ。また、陥入領域が正常胚よりも小さくなる変異体を解析したところ、数を増した余剰な細胞ではやはりtrhの発現がオフになり、数少ない陥入できた細胞でのみtrhの発現が維持されることがわかった。trhの発現がオフになった細胞は、その後表皮の細胞となり、陥入して管状構造を形成してtrhの発現が維持された細胞が、気管を形成したのだ。

では、組織の形状に応じてtrhの発現を制御する仕組みの実体はどのようなものだろうか。trh遺伝子近傍のゲノム領域を探索した結果、通常はtrhの発現をオンにしているが、細胞がシート状構造のときにだけ積極的にtrhの発現をオフにする遺伝子発現調節領域を同定した。この領域を介したtrh発現の制御により、表皮にとどまった細胞はtrhの発現を抑制する一方、陥入した管状構造の細胞ではtrhの発現が維持され、さらにtrhの機能によって安定に管状構造が保たれることでtrh発現、気管細胞分化と管状構造の調和が調節されていることが考えられた。

「気管の形成において、trhは陥入を維持して管状構造を形成することを促進し、また管状構造が形成されることでtrhの発現が増強されるというポジティブフィードバックが関与していることがわかりました。細胞の運命は、組織の形態によって制御されているのです。」と林チームリーダーは語る。「発生という現象は、より複雑な形態を形成するように必ず一方向性に進みます。つまり一度できたものは壊れないように維持しないといけない。しかし、気管を形成するためにtrhを発現した細胞でも、組織の形態に応じてtrhが発現しなくなると運命が逆戻りしてしまうのです。複雑な構造を作り出す形態形成において、形態を介したポジティブフィードバックが、細胞の運命を定める重要な役割を果たしているのです。」

高橋 涼香(BDR・広報グループ)


  • *1:Ogura Y, Wen F-L, Sami MM, et al. A Switch-like Activation Relay of EGFR-ERK Signaling Regulates a Wave of Cellular Contractility For Epithelial Invagination . Developmental Cell 2018 doi: 10.1016/j.devcel.2018.06.004
  • *2:Kondo T and Hayashi S. Mitotic cell rounding accelerates epithelial invagination. Nature 494. 125–129 (2013) doi:10.1038/nature11792

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