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微笑む大学院生
大学院生たちロゴ

コロンビア、英国、日本で
研究者と医師の二足のわらじゴンザレス手嶋 ラウラ百合子

2024年2月7日

「大学院」と聞くと、どんなイメージが浮かびますか?大学生が学部卒業後にそのまま進学する場所でしょうか?実は大学院は学部生だけでなく、社会人や留学生などが自身の経験を持ち寄り、新たな挑戦に取り組む場所でもあります。理研の連携大学院では、コロンビアとイギリスで経験を積み日本にやってきた1人の大学院生が、豊かなバックグラウンドを生かし、心臓の研究に情熱を注いでいます。今回はそんな彼女のストーリーや研究の舞台裏に迫ります!

答える人

大学院生のプロフィール写真

ゴンザレス手嶋 ラウラ百合子
Laura Yuriko González-Teshima

経歴について

簡単に今までの経歴について教えていただけますか?

まず私が小さい時におじいちゃんが亡くなっているのですが、その時は小さかったのでおじいちゃんが何故急にいなくなってしまったのかが分かりませんでした。しかし後々、実は心臓の病気で亡くなっていたということを知り、それが自分が医者になりたいと思ったきっかけとなりました。そしてコロンビアの大学の医学部を卒業し、その後イギリスにも留学したのですが、私は生まれも育ちもコロンビアの日系三世で、自身のルーツである日本で勉強したいという思いが強くありました。実はコロンビアの医学部時代に1ヶ月だけ日本に来たことがあるのですが、その時に東京女子医科大学の清水達也先生のラボで心臓の細胞シートを見学したことからiPS細胞にも興味を持ちました。そのような経緯もあって山中伸弥教授がiPS細胞を作成された京都大学の大学院に進学し、今は京都大学の大学院の心臓血管外科で院生をしています。そこでは主にiPS細胞を使った単心室症(心臓から血液を送り出す心室が一つしかない疾患)の治療のための研究をしています。


理研に来られたきっかけは何ですか?

大学院でお世話になっている升本先生が京大のラボと理研のラボを掛け持ちでお仕事されていたため、その影響で理研にも来ることになりました。今、私は博士課程の2年生なのですが、1年の時には京都大学と同志社大学のラボもかけ持ちしていました。理研では色んな人と共同研究もできるし施設も充実しているので、今は理研で研究しています。

インタビューに答える大学院生正面

今までいらっしゃったコロンビアやイギリスと日本の研究現場を比較して違いはありましたか?

全く違いますね。コロンビアではみんな陽気で賑やかな感じで、毎日コーヒータイムなどを作るのですが、日本では文化が違うせいか、あまりそういう感じではないです。ただ気づいたのは、日本ではアイスブレイクするのに時間がかかるだけで、時間さえかければ、あまり違いは無いのかもしれません。イギリスは学生として3ヶ月ほど留学していたのですが、コロンビアとあまり違いはありませんでした。ただ、私はコロンビアやイギリスに居た時には臨床で患者さんを診ていたのですが、日本では研究だけをしています。そういった環境面以外での違いもあるので単純に研究現場を比較することは少し難しいかもしれません。


それでは日本か海外かを問わず研究現場での楽しいところ、大変なところはありますか?

大変だと感じるところは、毎日大切な決断を1人で行わないといけないところですね。分からないことは自分で勉強していかないといけません。医学部にいたときはたくさん勉強をして、患者さんを診るという中でも、いつも周りに人がいたのですが、ここでは自分1人で研究を進めていくことが多いので、迷ったり悩んだりした時は大変ですね。逆に迷って、迷って、諦めたいぐらい!と思ったあとに、ひらめいた時はすごく楽しいですね。その楽しみに辿り着くまでは大変ですが(笑)

インタビューに答える大学院生横顔

豊富な経験をお持ちですが、この先どのように生かしていきたいですか?

将来的には博士号を取って医者の仕事と研究の仕事の両立を目指していきたいです。研究者としての目線をもって患者さんと関わることが出来ること、研究成果が医療で使われているところを見ながら研究を行えることが、この二つの道を両立することのメリットだと思います。

研究について

未分化細胞を用いて何について研究していますか?

今、私が所属している研究室は未分化細胞(ヒトiPS細胞)から心臓を作るための手順や条件のノウハウ、(専門用語で)いわゆるプロトコルを持っているのですが、私はその中で心臓そのものではなく、血管を専門的に作っています。私が取り組んでいる研究の本筋として「人体で実際に起き得る病気をIn vitro(試験管内等の生体外での人工的な環境)の条件下で再現する『疾患モデル』を作成する」というのがあるので、まずどんな病気の再現を行うかを決めてから血管を作成します。そして、そこからどのようにすればその病気を再現できるのかを考えるというのが、私の取り組んでいる研究のテーマです。


ヒトiPS細胞を用いた病気モデルを調べることにはどのような意義がありますか?

現在の医学の研究でも動物を用いて色々な実験・研究が行われてはいますが、やはり動物は人間と全然違います。しかし、iPS細胞は人間由来の細胞なので、そこから作り出した血管は人間の血管と同じであると言えます。そのため、そちらの方が動物を用いた実験よりも、より正確に観察・解析を行うことができるのです。それに私自身、動物が大好きなのでなるべく動物を使いたくないと考えているというのもあります。

顕微鏡を覗き込む大学院生の横顔

一つの研究成果や技術が一般的な医療の場で用いられるようになるまでにはどれくらい年月がかかるものなのですか?

患者さんに「この薬ありますよ」って言えるようになるまでには、どんなに短くても10年はかかると思います。「何でそんなに長いの」って思うかもしれないですが、単に作るだけではなく、患者さんの安全を第一に考えて使うためには安全性や実際にどう使うのかや患者に合うか合わないかといったことを調べていかなければいけません。そうして、しっかりと治療等に活かせるような形にするとなると10年とかそういった単位での年月が必要になってきます。

また、私一人の研究だけではなく色々な人の研究で得られた知見を結集させて、ようやくそこに繋がるドアを開けることができるという感じですから、それだけでも多分10年はかかりますね。しかし、そのドアを開けないことには「患者さんに医療を提供する」というゴールまで辿り着けないので、私はそのドアを開けるための仕事をちゃんと頑張っていきたいと思っています。

研究についてポスターを使って説明する大学院生と聞き入る大学生たち

大学院・研究生活について

1日のスケジュールを教えてください。

今は京都に住んでいて、3時間ぐらいかけて(神戸の)理研に通っています。朝は5時ぐらいに起きて、ストレッチをするのが日課です。自分の時間を大切にするために朝早く起きています。9時ぐらいには理研に着いて、スケジュールを確認して、その日の実験を開始します。実験室での作業が終わったら、オフィスに戻って次の日の実験プランを決めたり、発注などの事務作業を行います。毎日のスケジュールは最初からきちんと計画を立ててそれに沿って進めるというより、実験結果によって計画を決めていく、という感じです。なのでスケジュールをしっかりと決めてはいないですね。帰る時間は日によっても違うのですが、いつもできれば17時ぐらいには帰るようにしています。実験がうまくいけば早く帰れますね。

京都大学の大学院でも院生をなさっていますが、京都大学と理研となると、かなり距離がありますね。京都大学から離れたこの理研で研究することのメリットはありますか?

理研というだけでメリットですね(笑)理研には様々な人がいるので、相談しやすい環境ですし、色々な意見が貰えます。また、私にとっては研究室での公用語が英語というのも良い点ですね。

サルサダンスの手本を見せる大学院生

日常の中で家族や友達と過ごす時間はありますか?

必ず作ります!去年結婚しまして、主人もコロンビア出身の医者なんです。自分たちの時間は必ず作るようにしています。土日に仕事に行くこともあります。細胞は子どもみたいなもので、毎日面倒見ないといけないので、みんなで当番を変わって土日に行っていますね。土日は3時間ぐらい作業をしたら、あとはご飯やカフェに行ったり、神戸を楽しんでいます。また、料理が好きなのでよくしますね!あと最近はパン作りにもハマっています。パン作りってすごく難しいです(笑)あと京都の鴨川が好きなので、よく散歩しています。


家にいる時は仕事を一旦忘れて、自分のプライベートを楽しむようにしてるんですね。

できるだけ、そうするようにしています。でもコロンビアでの仕事もあって。実は日本に来る前にコロンビアではエピデミオロジー(疫学)の研究をしていて、そちらの仕事はオンラインでもできるので、今も続けています。コロンビアと日本では時差が14時間あるので、日本の夜はあちらの朝になります。その時差をうまく使って仕事しています。

インタビュー中に楽しそうに笑う大学院生

最後に、大学院での研究の道を志す人に向けてエールなどいただけますか?

まずは研究が好きか、確かめるために学部時代に色んな研究をやってほしいです。そして研究が好きで大学院へ進学したいと思っている人は、「他の人とは違う自分の強みってなんなのかな、自分はどんな技術を身につけたいのかな」と考えてみることが一番大切だと思います。自分の興味があること・好きなことを見つけて、それを自分の強みにしよう!と思ってみてください。


ありがとうございました。

編集後記

コロンビアと日本、イギリスでも医学系学生として活躍されている手嶋ラウラさんの大学院生としての日常について私たち大阪教育大生が初めての体験ながらインタビューさせて頂き、記事の制作にも携わらせて頂きました。

普段の生活の中で大学院生が何をしているのか、そして何を目指しているのかは具体的に想像し難いものです。この記事がそういった方々の目に届くことで科学の発展のために日々努力し邁進している人々の姿をより鮮明に伝えることができれば幸いです。

今回、快くインタビューを受けてくださった手嶋さんと、記事作成についてご助言くださった理化学研究所の方々に深く感謝申し上げます。

大学院生を囲んでインタビューをした大学生たち

ラウラさんを囲んで。左から西浦花織、永田慧、高間翔太朗(大阪教育大学教育学部教育協働学科3年)

取材日:2023年11月2日

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