

研究もスポーツも恋愛も
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2022年10月27日 No.1 浦 朋人
大学生にとって、大学院生は知っているようで、実はよく知らない存在。どんな人が大学院に進むのか?大学院での生活はどんな感じなのか?研究はどれくらい大変なのか?普通の大学生たちが、様々な疑問を大学院生にぶつけてみました。
答える人

浦 朋人(うら ともと)26歳
- 筑波大学大学院 数理物質科学研究科 博士課程3年
- 日本学術振興会特別研究員(DC1)
- 理化学研究所生命機能科学研究センター 細胞構造生物学研究チーム所属
趣味はサッカー。ポジションはミッドフィルダー。学部生(筑波大学)時代は体育会サッカー部に所属して、部活をしながら研究にも励む。理研ではタンパク質の構造を調べるための手法の一つである核磁気共鳴法(NMR)を用いて細胞内でのタンパク質の制御を明らかにしようと研究している。私生活では、昨年結婚したばかりの新婚ホヤホヤ。
研究に関するQ&A
NMRとは、どのようなものですか?
原子核の周りには電子が回っていて、それが磁場を持ちます。その磁場の変化を検出する測定法です。磁場の変化は、原子の周囲の環境によって違うため、分子の中の一つ一つの原子を区別することができます。ちょっと分かりにくいかもですが。
タンパク質の制御は実際の社会でどのように役に立っているのですか?
体の中の普段は溶けているタンパク質が、線維化したり、変な形に固まってしまうと、疾患の原因になることがあります。例えば、ものを忘れやすくなって、記憶がダメになってしまうアルツハイマー病とか、そういう病気の原因になってしまうこともあって、タンパク質の自己集合とかの研究が進んでいます。
僕が研究している液―液相分離もそこに関係してくるんじゃないかと思われているので、それを制御できれば、疾患の予防になるかなと思っています。
もう1つは、体の中の化学反応を触媒するタンパク質を酵素と言いますが、酵素が集合体をつくると、その働きが十倍にもなったりするという現象を僕は研究しています。酵素はいろんな業界で産業的に利用されているので、反応を強めるということは非常に価値があります。
例えば食品とか、洗剤とかにも酵素でできているものがあるので、いろいろなところで使えるかなと思っています。
生活に関するQ&A
なぜ大学院に行ったのですか?
所属していた学部の学生のほとんどが大学院に進むので抵抗はありませんでした。研究をやってみるのもいいかなと思い、とりあえず進学しました。
研究テーマはどうやって決めるのですか?
教授の助言を踏まえながら、ある枠組みの中から自分で選びました。 教授は良い意味で放任主義だったので、テーマの押し付けなどはなく、自由に研究を進めることができました。本当に感謝しています。
1日のスケジュールはどんな感じですか?
平日は毎朝9時から30分間、研究室のメンバーと論文を読む時間があります。それ以降は自分次第です。18時や19時に帰ることが多いですね。論文を読んで午前中は実験の準備をして、午後に測定を行い、残りの時間でデータを回収してまとめますね。実験がうまくいかないときは、遅くまで残る日もあります。 論文を書いているときは一日中ずっとパソコンの前にいますね 。
休日は?
サッカーなどの運動をしてますね。大学院生は運動しないイメージが強いと思いますが(笑)
研究者って結婚は早いんですか?
早い人と遅い人で二極化するとよく聞きます。僕の周りには早い人が多い気がします。僕の指導教官も博士課程時代に結婚してました。
研究室恋愛ってあるのですか?
あるかないかで言うと、ありますね。別にいいですけど、ギクシャクすることもあるので、やるならうまくやってほしいなー(笑)
大学と理研の違うところは?
多くの大学の研究室と比べて理研は資金が潤沢で、使える測定装置がすごいという印象です。それを比較的自由に使えるってことは大学の研究室では考えられないです。また、理研ではプロの研究者がたくさんいて、親切に教えてくれたり、議論も白熱しやすいです。一方、大学だと学生同士のコミュニケーションがよくとれ、切磋琢磨できたり、若い子と話せて新たなアイデアが出たりしますね。
どうすれば研究のプロになれるのですか?
僕は今、博士課程の学生でプロではないんですけど・・・論文を書いたりアウトプットしたりできることが大事だと思います。だれにでもわかる形で、自分の研究の大切さや面白さをアピールしていく必要があると思います。
アルバイトはしていますか?
学術振興会の特別研究員に採用してもらい、お金をもらっているので、やってないです。
大学の教授と理研の研究者とはどのような違いがありますか?
大学では、学生がメインで実験をして、教授は研究室に予算をとってきたり、論文書きの手伝いや本を書くことをメインにしているイメージですね。逆に理研の研究員の方は、自分たちで実験を進めながら、論文を書くイメージで、自分の知りたいものを研究しているイメージですね。
大先輩の二人のプロと
(右から)美川務 専任研究員、八木宏昌 研究員
研究者になる人の特徴は?
正解がすぐにわかるものを求める人ではなく、好奇心があり、かつ正解が簡単にわからないものに対して根気強く、向き合える人ですかね?個人的なイメージになりますが(笑)
研究のやりがいは何ですか?
過去の研究結果を踏まえて、仮説を立てて実験するんですが、その実験が成功しても、失敗しても新しい発見となるので、どっちに転んでも少しずつ前に進んでいるという思いで研究しています。
修士から博士になる過程で就活はしなかったのですか?
実は、就活して受かったんですけど、今やっている研究を突き詰めてみたいし、社会での博士号の重要性が上がりつつあるので、博士課程に進みました。
研究者になるために学部時代にやった方がいいことはありますか?
授業を真面目に受けていればいいと思いますね。ただ、たとえ成績は悪くても研究は得意という人もいますし、学部時代に自分の興味ある分野に飛び込んでみることも大事かなと思います。学部時代は時間にも余裕があると思うので、ミスすることを恐れずに、やりたいことをやっておけばいいんじゃないかと思います。
大学院生は研究がすべてという感じの人が多いイメージですが?
スポーツをやったりアクティブな人も多い印象ですね。今日はそのイメージを少しでも覆せていればよいかなと思います。
編集後記
タンパク質の制御?!一瞬、私たちの社会とは離れている研究のような気がしましたが、実は、食品の例をはじめとして、私たちの生活の中の身近なことに関係しているんですね。理研は規模が大きくて、大学院進学を希望する学生にとって、いい候補であると思いました。大学院生はすごく研究をしているというイメージがありましたが、恋愛やスポーツを積極的に行うなどの意外な一面も知りました。
快くインタビューを受けてくださった浦さんに深く感謝申し上げます。

大阪教育大学 教育学部 教育協働学科 4年
(右上から時計回りに)平松大夢、野嵜重太、髙田幸太郎
取材日:2021年11月4日
本インタビューはオンラインで行いました。