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腸内細菌が、腸の動きを活発にする乳酸菌とアセチルコリンと蠕動運動の関係

2024年3月19日

腸内細菌が宿主にさまざまな影響を与えているらしい、ということがいろいろな動物で分かりつつある。腸の調子を整えるのはもちろん、免疫システムを活性化したり、寿命とも関係したりするらしい。例えば理研BDRの栄養応答研究チーム(小幡史明チームリーダー)は、ショウジョウバエでは腸内細菌の代謝物が老化を促進し寿命を短くする一方で、ストレスや感染に対する耐性を高めることに一役買っていることを報告している(2023年4月26日ニュース:腸内細菌と寿命の新しい関係)。

同研究チームの藤田有香(京都大学大学院修士課程2年)らは、ショウジョウバエ腸内の乳酸菌が産生するアセチルコリンによって、腸の蠕動運動が活発になることを明らかにした。本成果は科学誌Philosophical Transactions Bに2024年3月18日付で掲載された。

腸内細菌によって消化管の蠕動運動が活発になるということは、特に哺乳類で知られている。だが、どのような腸内細菌が、どのように消化管の運動を促進するのかについては未解明だ。そこで藤田らは、ショウジョウバエの幼虫でこの疑問を明らかにすることにした。

まず必要なのは、生きたままの幼虫の腸管の動きを確認する手法だ。幼虫に色付きのエサを食べさせたあと、粘着テープの上に幼虫を固定して顕微鏡下で観察すると、腸管の中を移動していくエサが見える。このエサの動きから、活発な腸管の蠕動運動が非侵襲的に可視化することができた。蠕動運動には、前から後ろへの動き、後ろから前への逆行性の動き、その2つの動きの間の短い動きの3種類があるが、本研究では腸管前部の前から後ろへの動きを観察した。

動画.ショウジョウバエの幼虫の腸の動きの観察。色付きのエサが腸の中を前から後ろへ、後ろから前へと移動しているのがわかる。

では、エサに含まれる腸内細菌の種類によって、腸管の動きは変化するのだろうか。細菌が腸内の環境に与える影響の多くは、菌体そのものではなくその代謝産物によるものと考えられている。そこで実験では、無菌状態の幼虫に特定の細菌を培養した上清液を与えることにした。腸管の動きをカウントすると、野生型のハエの腸管は1分間に約17回動いたが、乳酸菌 Lactiplantibacillus plantarum (L. plantarum) の培養上清を含むエサを食べさせると1分間あたり3回程度腸管の動きが活発になった。一方、同じ乳酸菌だが異なる種であるLeuconostoc sp. (Leu) の培養上清を含むエサでは変化は見られなかった。

図.(左)ショウジョウバエの幼虫にL. plantarumの培養上清を含むエサを食べさせると、何もしないときと比較して腸の動きが1分間に約3回増えた。Leuconostoc sp.の培養上清を含むエサには変化がなかった。(右)エサにアセチルコリンを添加すると、腸の動きが活発になった。

L. plantarumに含まれるどのような代謝物が腸管の動きを促進しているのだろうか。メタボローム解析を行うと、L. plantarumの培養上清には多量の乳酸とともに、アセチルコリンが含まれていることがわかった。一方でLeuの培養上清ではアセチルコリンが検出されなかった。そこでエサにアセチルコリンだけを添加してみると、L. plantarumの培養上清を食べさせたときと同様に腸管の運動が促進された。

藤田さんはこの研究についてこう語る。「アセチルコリンが消化管の動きを活発にすることは哺乳類では知られていましたが、ショウジョウバエでも同じように腸管の蠕動運動が活発になったので、哺乳類においても腸内細菌由来のアセチルコリンが宿主に影響を及ぼしている可能性があります。」更に小幡チームリーダーは「しかし、乳酸菌内でのアセチルコリンの合成経路も、ショウジョウバエの消化管に10種類あるアセチルコリン受容体のどれが関与しているのかも、まだわかっていません。腸内細菌がどのように役に立っているのかを全容解明するには、もう少し研究が必要です。」と続けた。

高橋 涼香(BDR・広報グループ)

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