ロゴマーク
研究

研究

BDRでは、様々な分野の研究者が協力して、より高い目標に向かって研究を進めています。

セミナー・シンポジウム

セミナー・イベント

BDRでは、ライフサイエンス分野の国際的な研究者を招いて、年1回のシンポジウムや定期的なセミナーを開催しています。

働く・学ぶ

働く・学ぶ

BDRでは、様々なバックグラウンドを持つ人々を受け入れ、オープンで協力的な研究環境の構築に努めています。

つながる・楽しむ

つながる・楽しむ

BDRでは、様々なメディアや活動を通じて、研究の魅力や意義を社会に発信しています。

ニュース

ニュース

最新の研究、イベント、研究者のインタビューなど、理研BDRの最新情報をお届けします。

BDRについて

BDRについて

理研の強みを生かし学際的なアプローチで生命の根源を探求し、社会の課題に応えます。

心臓移植のための治療から、回復のための治療へ- 補助人工心臓使用下でのヒトiPS細胞由来心血管系細胞多層体による心筋再生 -

2024年2月6日

全身に血液を送り出すはたらきをしている心臓。その心臓のはたらきが悪くなるのが心不全という病気だ。心不全は世界的な死因の1位となっており、日本でも心不全は増加している。そのため重症の心不全患者は、植え込み型補助人工心臓を利用しながら心臓移植の機会を待つことがある。しかし心臓移植のハードルはなかなか高い。それならば、補助人工心臓を利用して、心臓そのものを回復させることはできないだろうか。

理研BDRの升本英利研究リーダー(臨床橋渡しプログラム心疾患iPS細胞治療研究)らは、補助人工心臓を装着している状況を再現した心筋梗塞モデル心臓に心血管系細胞多層体を移植すると、効率的に移植片が生着・増殖し、心筋の機能が回復することをラットを用いた実験で確認した。本成果は医学誌The Journal of Thoracic and Cardiovascular Surgeryに2023年11月17日付で掲載された。

心血管系細胞多層体は、マウスES細胞やヒトiPS細胞から分化誘導した心筋細胞、血管内皮細胞および血管壁細胞を、温度感受性高分子ポリマーとゼラチンハイドロゲルを利用して5層積層した人工心臓組織である。升本らはこれまでに、ラットに移植した心血管系細胞多層体が生着して機能することや、生着後の移植片に血管網が誘導されて心筋組織が再生することを報告してきた。今回は、補助人工心臓の装着により空打ち(心室に血液からの圧力がかかっていない)状態になっている心臓において、心血管系細胞多層体の移植が心筋梗塞部位の再生を促進するかどうかを検討した。

図. 循環補助を行った心血管系細胞多層体を移植したラットの心筋梗塞モデル心臓では、循環補助を行っていない心臓と比較して移植した心血管系細胞多層体が効率的に生着した。

実験では、まず心筋梗塞を起こしたラットの心臓を別のラットの腹部大動脈に異所移植することで、移植した心臓に対して補助人工心臓(この場合は宿主側の心臓)を用いた循環補助が行われている状況を再現した。移植した心臓の心筋梗塞発症部位にヒトiPS細胞から分化誘導した心血管系細胞多層体を移植したところ、移植1ヶ月後の移植部位に心筋組織が再生し、心筋細胞が増殖を続けていた。また、通常の拍動を続けている心臓の心筋梗塞発症部位は、心筋梗塞発症部位の心筋が拍動時の圧力によって繊維化し、薄くなってしまうが、循環補助が行われている心臓においては、拍動時の圧力から心筋が解放されているため、線維化する範囲が小さくなり、心筋の厚さも保たれていた。

これらの効果が見られた理由として、移植したヒトiPS細胞由来の心血管系細胞多層体や再生している部位の周辺だけではなく、再生組織の内部でも血管新生が起きており、これが移植した心血管系細胞多層体の生着や組織の再生を促進しているためと考えられる。さらに、循環補助が行われている心臓では、循環補助がない心臓と比較して移植した心血管系細胞多層体の生着量が有意に増加していた。つまり、心筋が拍動時の圧力から心筋が解放されていると、効率的に心筋の再生が起こり、また心筋細胞の萎縮も起こりにくいということがわかった。

「今まで補助人工心臓は移植までの時間を待つために利用されてきましたが、補助人工心臓を利用して傷ついた心臓の組織を拍動の圧力から開放することで、iPS細胞を利用した心筋が効率的に生着したり再生したりすることがわかりました。」と升本研究リーダーは語る。「将来的には心筋梗塞などでダメージを受けた心臓を補助人工心臓とiPS細胞の助けを借りて効果的に治療することで、心臓移植のためだけではなく、病気からの回復を目指して補助人工心臓を装着し、心臓の機能を回復させて補助人工心臓を外すことを目指すという選択肢が増えると思います。」

高橋 涼香(BDR・広報グループ)

PAGE
TOP