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細胞の中で機能している分子の観察を完全自動化する

2019年1月31日

ロバート・フックはコルクの弾力性の秘密を知るために、顕微鏡で観察をして細胞を発見した。同じように、現代の科学者は細胞の中で機能している分子の秘密を明らかにするために、顕微鏡を駆使している。様々な方法が開発され、数多の知見が得られてきた。そして、また一つ、生きている細胞の中の分子の観察を完全に自動化した新たな方法が生まれた。

理研BDRの安井真人研究員と廣島通夫上級研究員(細胞シグナル動態研究チーム、上田昌宏チームリーダー)らは、深層学習などの人工知能技術とロボット技術を組み合わせて、顕微鏡の操作から薬剤添加、細胞観察、画像解析に至る一連の計測・解析過程を完全に自動化した革新的な細胞計測システム「AiSIS」を開発した。本成果は科学誌 Nature Communicationsに2018年8月3日付で掲載された。

(左)焦点は視野端にある絞りの輪郭部分を用いて評価値を計算し焦点位置を決定する。オレンジ色の部分は目で見て焦点があっていると判断される対物レンズの位置。(右)観察に適当な細胞は、正解領域の塗り分け画像を利用した機械学習によって選択される。

生体分子を1分子レベルで観察できることは、1995年に柳田敏雄(現理研BDR細胞動態計測研究チーム チームリーダー)らによって蛍光標識したATPを利用してミオシン分子を観察したことが世界で初めて報告された。これがきっかけとなり、蛍光顕微鏡を使った生体分子の1分子イメージングが発展してきた。2000年には佐甲靖志(理研佐甲細胞情報研究室 主任研究員)らが、生きたままの細胞の中で細胞表面の受容体にリガンドが結合する様子を観察することに成功し、生きている細胞についてありのままの状態を観察する生細胞内1分子イメージングが可能になった。しかし、生細胞内1分子イメージングは非常に特徴のある有用な方法である一方で、観察に向いている細胞を探索して焦点を合わせる作業には、経験を積んだ研究者の熟練の技が必要だった。また、研究者が細胞を一つずつ撮影していく必要があり、大量のデータを取ることは不可能だった。

そこで安井らは画像取得から解析までを自動化し、大量のデータを利用した1分子イメージングが可能となるシステムの開発に乗り出した。まず取り掛かったのは顕微鏡観察における焦点合わせの自動化だ。現在の顕微鏡システムでは焦点合わせの精度が不十分で、毎回研究者が手動で調整する必要があった。安井らは、焦点合わせの高精度化を目指した。絞りの反射像のエッジに焦点位置が合うように画像の鮮明さを評価し、最もエッジがシャープに見える位置を決定する方法を用いることで精度が上がることを見出した。その結果、±181nmの位置精度でガラス面への自動焦点合わせが可能となった。

次に観察に適した細胞を適切に選択するために、自動細胞検索アルゴリズムを開発した。このアルゴリズムでは、予め適切な蛍光強度をもつ細胞画像を100枚程度使用して教師データとし、観察領域を研究者自身が選択する。自動細胞検索に機械学習を利用したことにより、観察しようとする研究者には高度な知識がなくても適切な細胞を色分けするだけで画像フィルタの作成が可能となった。また、蛍光の退色や細胞選択の恣意性が軽減されることで、非常に高精度なデータが取得できようになった。さらに、油浸レンズ用のオイルを自動供給する装置と、マルチウェルに播種した細胞サンプル搬送や溶液を添加するためのロボットを組み合わせ、24時間で1600細胞を撮影して解析できる完全に自動化された1分子イメージング用システム「AiSIS」が完成した。

(左)EGFの有無によるEGFRの状態変化。EGFが結合していないとき(黒)と結合しているとき(青および赤)の拡散速度と蛍光強度の違いを細胞10個(上)と700個(下)で比較したもの。(右)EGFとリン酸化阻害剤を添加したときのEGFRの拡散速度の変化。

そして、この「AiSIS」を用いた大規模な画像解析による1分子イメージングによって、その細胞の状態を判断できるかどうかについて、実証実験を行った。蛍光標識したEGFRを用いてEGFの結合による挙動の変化を観察したところ、EGFの結合によってEGFRの拡散速度の低下や、拡散範囲の縮小、多量体形成による蛍光強度の上昇などが観察された。また、EGFRの変化を指標にして細胞膜上のEGFRにEGFが結合しているかどうかについて、AiSISが判別することも可能であった。また、EGFとEGFRのリン酸化阻害剤を様々な濃度の組み合わせで細胞に添加すると、EGFによるEGFRの拡散速度の低下に対してEGFRのリン酸化阻害剤が拮抗的に作用する様子が示された。さらに、EGFRとEGFRのアダプタータンパク質であるGrb2について2種類の蛍光プローブを用いて観察を行うと、EGFの結合によって多量体化して拡散速度が低下し、そこにGrb2が結合してシグナル伝達を行う様子が観察できた。つまりAiSISは、リガンドと受容体の結合を直接観察するのではなく、受容体の機能的な指標を観察することで、受容体が活性化しているかどうかについて判別することを可能にした。

「この論文では『顕微鏡は自動化できる』ということを示したかった。このシステムはどんな顕微鏡にも適用することができるので、超解像顕微鏡などにも応用することができると思います。さらに今よりも1つの細胞を観察するのにかかる時間を高速化して、将来的には世の中の顕微鏡を全て自動化したいですね。」と安井研究員は語る。また、廣島上級研究員は、「細胞内の分子の動きからどのような事がわかるのかはまだわかっていないところが多いです。受容体の動きから機能を推測できることが重要なデータとなり得ることは今後証明していきたいと考えています。」と語った。

高橋 涼香(BDR・広報グループ)


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