ヤツメウナギとサメと研究という仕事|理化学研究所 生命機能科学研究センター(BDR)

ヤツメウナギとサメと研究という仕事2019年3月5日

日下部りえ(形態進化研究チーム 研究員) ✕ 兵庫県立豊岡高等学校 生物自然科学部

形態進化の研究者である一方、育児もされている日下部さん。仕事と育児の両立について、さまざまな課題が取りざたされる今日、それらの両立と苦労をはじめ、研究者が普段どのような生活を送っているのか、その知られざる研究者の素顔について教えていただきました。

日下部りえ画像

日下部りえ (くさかべ・りえ) 広島市出身。カリフォルニア大学バークレー校、京都大学、北海道大学で発生生物学を学ぶ。日本学術振興会特別研究員、神戸大学助教などを経て、理化学研究所(神戸)研究員。脊椎動物のかたちの進化、特に筋肉の形態形成が研究テーマ。

現在されている研究について教えてください。

脊椎動物の中で最も初期に分岐し、生きた化石とも呼ばれる円口類に属するヤツメウナギと、その後に分岐した軟骨魚類のサメを実験材料として遺伝子の発現や胚発生の過程を比較し、その違いを検証しています。そして、生物がいかにして新たな特性を得るに至ったのかを研究しています。原始的で比較的簡単な構造を持つ円口類や軟骨魚類だけでなく、鳥類や哺乳類などの複雑な構造を持つ生物への進化のシナリオを紐解きたいと思っています。

この研究を始めたきっかけはなんですか?

中学生の頃、「ソロモンの指環」という本を読んで動物行動学に興味を持ちました。それと同時に、顕微鏡の中に見えるものがおもしろくて、きれいで、遺伝子に興味を持って研究を始めました。生物がいかにしてその場に現れたか、遺伝子で比較できるところに面白さを感じたからです。

研究で気をつけていること、苦労したことはなんですか?

研究で苦労することはいっぱいあるのですが、私の場合、特に材料が生き物であるということで、実験で扱う生体が稀少で手に入りにくいところです。実験できるチャンスが少ないので、『いかに効率よく実験結果を見て次に行う実験を見つけるか』に気をつけています。他には、実験で当たり前のように使用していた薬品が実は結果を左右するものだったり、ライバルに先に論文を出されてしまったり、ですかね。でも、挫けてばかりでは進まないので、気持ちを切り替えて先を見ることが大事です。例えば、実験結果だったらミスを踏まえて次に活かしたり、論文だったらそれをしっかり読んで次の行動を考えたりします。実験材料を提供してくださる方のおかげで実験が進められているので感謝しなければならないと感じています。ヤツメウナギの生態は、現地の方のほうが知っていることも多いので、現地のおっちゃんの助言が研究を進めることもあります。

どうやって研究テーマを決めたのですか?

高校のときは、生物部に入部していて、その時に参加した臨海実習で興味を持ったものから派生させて考えていました。素朴な疑問をどんどん調べていくことが役に立つかもしれませんね。理研ではPIとその部下の研究員の得意技を組み合わせて考え、PIの最終目標に必要な研究を進めていきます。PIの先生の目指すものをチームで仕上げる感じですね。

PIってなんですか?

PI (Principal Investigator) は研究室主宰者のことですね。その研究室を主導する人のことです。おおまかな研究の方針を決めたり、リーダーシップをとって研究を進めたりします。年齢層はベテランからフレッシュな人までさまざまですが、大学で言えば准教授や教授のような方々です。

日下部りえインタビュー画像1

研究の喜びや楽しみはなんですか?

世界中のマニアックな研究をしている仲間と出会って、視野が広がるのが楽しいです。論文提出等ではライバルですが、同じような研究をしている者同士なので分かち合えることも多く、モチベーションUPにもつながります。そして何より、実験で今まで誰も発見していなかったことを発見した時に喜びを感じます。

一日のスケジュールを教えてください。

朝食の後、子供を送り出して9時過ぎに出勤。夕方5時~6時まで研究を進めて、帰宅します。実験の結果が出るのが遅くなったりして、帰宅が遅くなることもありますが、主にこんな感じですね。研究をしたり論文を書いたりといったことには提出期限がなくマイペースで進めることができるので、金曜日までに終わるようにスケジュールを組んでいます。土日は家にいたいですから。それで、休みの日は子供と遊んだり、家事をしたり、趣味のピアノを弾いたりもします。何か創作することも好きですね。でも、生体を扱う仕事なので休みの日の出勤も時々あります。

仕事と育児の両立は大変ですか?

私には大学三年生、高校二年生と中学生の子供がいます。我が家は夫も研究者なので理解があり、夫婦交代で休むなどして育児を助け合っています。子供が小学生の時が一番大変でした。放課後に子供を預けるための学童はあったので働くことはできましたが、宿題のチェックなどしてあげなければいけないことが増えたので忙しかったです。また、研究者には契約期間があって、転勤がつきものです。母親の転勤で家族が引っ越すということが難しいので、働くエリアが決まってしまうのはありますね。

職業病ってありますか?

子供の夏休みの宿題の自由研究に口出ししてしまいます。「そこはデータとらなあかんやろ!」みたいな(笑)
あと、職業病とはちょっと違いますけど、研究のことが頭から離れないですね。基本的にずっと研究のことを考えています。作家さんに近い感じですかね。

最後に高校生へメッセージをお願いします。

社会のためになるような実験がもてはやされたり、期待されたりするけど、自分が面白いと思う、興味が持てる実験をすればいいと思います。楽しいと思うことが一番大切です!

日下部りえインタビュー画像2

インタビューを終えて

普段の生活の中で研究者の方とお話する機会などめったにないので、とても光栄で貴重な体験でした。理化学研究所への道中はとても緊張していましたが、日下部さんはとても気さくな方で、楽しくインタビューを行うことができました。研究に関することはもちろんですが、研究者の方の素顔や実験の材料であるトラザメのかわいさまでさまざまなことを学ぶことができました。素朴な疑問を見つけ、いろいろなことに興味を持ち、探究していきたいと思います。最後になりましたが、今回のインタビューにご協力していただいた理研スタッフの方々へ感謝申し上げます。本当にありがとうございました。

取材・執筆

兵庫県立豊岡高等学校 生物自然科学部
岩本柊吾、丸谷京、山根綾友、岡野玲士