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ノックイン技術がシリアンハムスターで利用可能に

2026年1月9日

生物において遺伝子の働きを研究する時に力を発揮するのがゲノム編集技術だ。ゲノム編集技術には大きくわけて2つの方法がある。一つは目的の遺伝子の一部を切ったり削ったりして機能を失わせ、その遺伝子がコードするタンパク質が作られない状態を作り出す「ノックアウト」技術。もう一つが外来遺伝子や改変された遺伝子を特定のゲノム領域に正確に挿入することで、遺伝子の働きを可視化したり、あるいは改変された遺伝子が過剰に発現する状態を作り出したりする「ノックイン」技術だ。

理研BDR生体モデル開発チームの繁田麻葉 専門技術員らは、ノックイン技術が確立されていなかったシリアンハムスターにおいて、CRISPR/Cas9ゲノム編集を用いた前核期胚マイクロインジェクションによって、ノックインシリアンハムスターの作製に世界で初めて成功した。本成果は科学誌 genesis に2025年9月18日付で掲載された。

ゴールデンハムスターとも呼ばれるシリアンハムスターは、がんや感染症においてヒトとよく似た反応を示す動物として歴史がある研究モデルだ。特にインフルエンザウイルスや新型コロナウイルスに対して、ヒトと非常によく似た病態を示し、さらに飛沫伝播が再現できる可能性があることから、感染症分野でのモデル生物として非常に期待されている。また冬眠する動物の中でも、飼育と繁殖が容易なため、冬眠研究モデルとしても注目されている。

しかし、シリアンハムスターにおいてゲノム編集を行うことは非常に難しい。ハムスターの受精卵は光に対して非常に高い感受性をもち、採卵後にたった15分間、人工光に暴露されるだけで発生が停止するという特性があるからだ。そのため、2010年代後半以降にノックアウト個体の作製例はいくつか報告されているが、遺伝子を特定のゲノム領域に正確に挿入するノックイン技術は確立されていなかった。そこで今回繁田らは、赤色LED光のみを光源とする暗室内での採卵、前核期胚でのマイクロインジェクション、および胚移植を徹底することで、シリアンハムスターにおけるノックイン技術の確立を試みた。

まず、ノックインの標的候補として、マウス等で広く利用されているROSA26遺伝子座に相当する領域がシリアンハムスターに存在するかどうかのスクリーニングを行った。ROSA26遺伝子座は、全身での転写活性が認められる一方で、遺伝子を挿入しても影響を受けにくい安全領域(safe harbor領域)として知られている。マウスROSA26遺伝子座とよく似た配列を持つシリアンハムスターROSA26遺伝子座(shROSA26)を同定し、この遺伝子領域に、非常に強い遺伝子発現を誘導する合成プロモーターであるCAGプロモーター下で赤色蛍光タンパク質(scarlet)を発現するプラスミドベクターを導入したところ、全身で赤色蛍光タンパク質の発現が認められ、ハムスターの健康にも異常はなかった。さらに、プロモーターを持たないscarlet発現ベクターをshROSA26遺伝子座に導入した場合でも、同様に全身で赤色蛍光タンパク質の発現が確認された。これらの結果から、shROSA26遺伝子座が他の動物種と同様に遺伝子ノックインに適したゲノム領域であることが示された。また、他の遺伝子座への遺伝子ノックインについても可能であることを示し、本技術の汎用性を確認した。最後に、作製した遺伝子ノックインハムスターから胚(2細胞期)を採取、マウスやラットと同様の方法で凍結保存した後、解凍して仮親の卵管に移植したところ、凍結胚から正常な仔ハムスターが発生することを確認できた。これらの研究から、シリアンハムスターにおいて効率よく遺伝子ノックインできるプロトコルの開発に成功し、その胚の凍結保存も可能であることが示された。

生体モデル開発チームの清成チームディレクターは「同じげっ歯類であるにもかかわらず、ゲノム編集シリアンハムスターの作製はマウスやラットと同じ方法ではうまくいきませんでした。暗室内での作業に加え、細かな技術の最適化をすることで、世界で初めてノックインハムスターの作製に成功しました。今後はこの技術を利用したゲノム編集ハムスターによって、世界中で感染症や冬眠の研究が進むことを期待します」と語っている。

高橋 涼香(BDR・広報グループ)

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