髙橋 知佳
理化学研究所 生命機能科学研究センター 老化分子生物学研究チーム 研究員
理化学研究所 生命機能科学研究センター 老化分子生物学研究チーム 研究員 立命館大学で生命情報学を学んだ後、分子生物学の世界へ。京都大学大学院にてアフリカツメガエルで初期胚発生の研究を行い、博士号(生命科学)を取得。西田チームリーダーから理研でのキリフィッシュの導入のお話しを頂き、老化・寿命研究へ。趣味は推理小説を読むこと。
今回お話を聞いたのは、以前線虫を使った寿命研究のお話をお聞きした宇野さんと同じ研究室の髙橋さん。今回もやっぱり寿命の話だけど、研究に使っているのはキリフィッシュという熱帯魚のようで…。キリフィッシュってどんな魚?というところから聞いてみます。
理化学研究所 生命機能科学研究センター 老化分子生物学研究チーム 研究員
理化学研究所 生命機能科学研究センター 老化分子生物学研究チーム 研究員 立命館大学で生命情報学を学んだ後、分子生物学の世界へ。京都大学大学院にてアフリカツメガエルで初期胚発生の研究を行い、博士号(生命科学)を取得。西田チームリーダーから理研でのキリフィッシュの導入のお話しを頂き、老化・寿命研究へ。趣味は推理小説を読むこと。
今は短命魚のキリフィッシュを用いて研究をしています。
そうです。野生ではアフリカ南部、ジンバブエあたりの雨季と乾季がある地域に住んでいる魚です。雨季にだけできる水たまりみたいなところで生きているんです。
なので、乾燥に強い卵を産むんです。卵は土の中で乾燥に耐えながら乾季を過ごして、雨季がやってきたらばんざい!ということですぐに孵化して、素早く大人になって、卵を産んで、自分は死んでいく。そういうサイクルで生きている魚なんです。なので、進化的に寿命が短くなったと言われています。
そうですね。その短い期間でちゃんと老化もしていきます。現在研究によく使われる脊椎動物でいえば、マウスは2-3年、ゼブラフィッシュは3-5年生きます。それに対してこの魚は寿命が4-6カ月なので、脊椎動物のモデル生物の中では一番寿命が短いんです。
2015年にはゲノム解読も行われて、老化・寿命研究の良いモデル生物として注目されるようになりました。
はい。飼い方のプロトコルなんかも、まだ確立途上なんです。実際にキリフィッシュを使って老化・寿命研究を始めるにあたっては、文献を調べたり、実際に飼育している研究室を見学させて頂いたりしながら、私自身で飼育システムやプロトコルを考えて、系を立ち上げるところからスタートする必要がありました。
西田チームリーダーから、理研でキリフィッシュを用いた老化・寿命研究を立ち上げてみないか、というお声がけを頂いたのがきっかけです。それまでは、受精卵から体ができていく過程に興味があり、胚発生研究を行っていましたので、オファーを受けるか正直迷いもありました。ですが、短命を生かしたおもしろい研究にチャレンジできそうだという期待感と、立ち上げからプロジェクトを私に任せて頂けることや、これまでとは異なる分野で研究を行うことに対する高揚感も同時に感じました。なので、思い切ってキリフィッシュの導入に挑戦してみようと思ったんです。
野生では昆虫の幼虫、ミミズ、動物プランクトンなどを食べているようですが、私たちの研究室ではブラインシュリンプの幼生と釣り餌とかでよく使うアカムシを使っています。でも、稚魚の間は顎が発達していなくてアカムシを食べられないので、ブラインシュリンプの幼生のみをあげています。
私たちの研究室では、最初は卵を培養液中で育てて、黒目ができてくるくらいの発生ステージになったら、半乾燥状態にするために腐葉土へ乗せ換えて、インキュベーターの中で育てています。
孵化できる状態まで育ったら、次は腐葉土に含まれるフミン酸という物質を溶かした液を入れた50mlチューブに卵を移してやって、雨季が来たよって感じで、思いっきり振ります。
他の研究者のプロトコルを参考にしているんですが、スコールが来た状態を再現するんじゃないかな、と思っています。卵が酸素と液体の両方に同時に接することが孵化のキーになっているんじゃないか、みたいなことを言っている人もいます。
短いとだいたい10-14日ですね。そのくらいで孵化できるステージまで発生が進みます。その後、腐葉土の状態にもよりますが、その半乾燥状態で1カ月くらいは保存できます。
休眠状態になっています。実は、受精卵から体が出来上がるまでに休眠できる発生ステージがいくつかあるんです。だから野生のキリフィッシュが乾季の間は卵で過ごすというのも、その休眠できるステージで発生が一時停止して休眠している状態なんです。でも休眠の詳しい機構はまだあまりわかっていないですね。
スキップしないのには理由があるんです。私の実験上、だいたい100個以上の卵を用意して、一斉に孵化させる必要があります。ですが、キリフィッシュは少産なので、1日に大量の受精卵を得られないんです。なので、だいたい1週間分の卵をまとめて使用するのですが、そのままだと受精日が異なるので孵化日がバラバラになってしまいます。そこで、発生途中で半乾燥状態にして、孵化できるステージにまで育った卵から順に休眠させます。そうすると、必要な卵の数が揃った時点で、一斉に孵化させることができます。また、私たちの飼育環境では、1回乾かしてあげる期間があったほうが、元気に育つ感じだったので、今は乾燥ステップを入れるプロトコルにしています。
2018年に理研に来てから設計をいろいろ相談して、半年後に工事が始まりました。2018年の12月くらいにようやくキリフィッシュ部屋ができて、そこから飼育方法をいろいろ試行錯誤しました。たくさんの方々にご助言・ご協力いただいたおかげで、時間はかかりましたが無事に系を立ち上げることができたんですが、本格的な実験へ移行するぞという前後に新型コロナウイルスの感染拡大が起こり、実験は約半年中断してしまいました。
継代のための飼育だけはOKだったので、最小限の数で維持していました。
胚や卵子の凍結報告に関する報告は、今のところないですね。精子の凍結保存方法の論文は発表されているのですが、受精率が25%程度なので、まだそこまで効率がよくなさそうなんですよね。これから先、さらに効率の良い精子の凍結保存や人工授精の方法が確立されたり、ストックセンターができたりするといいなと思っています。
今は稚魚を飼育する環境条件が、稚魚の成長や発達、その後の成魚の寿命とかにどう影響するのかということを研究しています。
以前私は受精卵から体ができていく胚発生の過程を研究対象としていたこともあり、寿命が短いキリフィッシュで老化・寿命研究するなら、稚魚から成魚になるまでの成長・発達過程と老化・寿命との関連に注目したいと思ったんです。寿命が短いと、稚魚の成長・発達期から老年期までの全ライフステージを短期間で解析できる、という利点があるので。それに、近年、胎児や幼児などの成長・発達期の環境条件が成人期の健康や疾病リスクと関連するという研究報告も相次いでいましたし。私たちのこれまでの研究で、稚魚の成長速度と寿命の意外な関係性を示す稚魚の環境条件を見出しつつあります。また、その研究の中で、トランスクリプトーム解析といって、全遺伝子の発現量を網羅的に調べるということもやっていたりとかします。
魚の場合、個体追跡する解析には尻尾を切る方法がよく使われます。特に若い時はちゃんと再生するので。ただ、私たちは全身やある臓器を対象にしているので一個体での追跡はせず、最初にたくさんの魚を用意しておいて、目的の年齢になったら、順に数匹ずつサンプリングしています。
長生きです。そういう論文がすでに発表されています。
1日2回の餌を毎日与えるところを1日おきに減らすと、その論文では寿命が10%強伸びていますね。食事制限以外の他の要因でも、寿命の変動は報告されていて、伸び率はおよそ10-40%で、短縮率は約20%ぐらいですね。
寿命曲線に差があるかどうかを調べるにはログランク検定など生存時間解析用の検定方法を用いて統計解析を行います。
なので、結果は統計解析を行なってきっちり検定していますよ。
なんでわざわざ新しいモデル生物を?とも思いましたが、それなりの理由があるんですね。確かに、線虫やハエでもわかることがたくさんあるとはいえ、やっぱりそれなりに近い脊椎動物というのがポイントですね。でもゼブラフィッシュやネズミは結構長生きだし、寿命の研究をネズミでやってたら、あっという間に10年くらい経ってしまいそう…。
理研OBで現在は神戸を中心に活動する事業開発人。分析化学、光学、バイオテクノロジー、ITなど幅広いバックグラウンドを持つ。理研をはじめとするアカデミアの技術・アイデアを事業にするため、アイデアを共有する場の開催から、資金調達、事業戦略立案など、さまざまな活動を行っている。
2026年5月27日 BDRニュース
BDRの研究ネホリハホリ
壊れた肺は、もう一度つくり直せるのか
桂廣亮 上級研究員 100年前のパンデミックを引き起こしたインフルエンザウイルスを人工的によみがえらせる――そんな衝撃的な研究との出会いが研究人生の出発点だったという桂さんに、現在に至るまでの軌跡をいろいろネホリハホリ聞いてみました。
2025年10月1日 BDRニュース
BDRの研究ネホリハホリ
左右非対称性から広がるロマンの話
石橋朋樹 基礎科学特別研究員 物理の研究室で生物の謎を解いてる人で、難しいことをおもしろく話してくれるよと太鼓判を押されたので、ネホリハホリしてきました。
2025年7月8日 BDRニュース
BDRの研究ネホリハホリ
研究室を支える屋台骨
木下聖子 アシスタント このシリーズ初のアシスタントさんですが、キャリアのほとんどを研究室アシスタントとして過ごした筋金入りだとか。研究室アシスタントという仕事について、ネホリハホリしてきました。