八木 創太
理化学研究所 生命機能科学研究センター高機能生体分子開発チーム 基礎科学特別研究員
週末は家事・育児に精を出す2児のパパ。公園に行く機会が多いため、あそこはブランコが多い、あっちは砂場に猫の〇〇が多い、など近所の公園はおおよそ網羅している。
クライオ電顕を使って転写複合体の構造解析をしている江原さんからご紹介いただいたのが今回の八木さん。構造生物学というのはタンパク質の構造を決めた後にどういうストーリーになるのかというのが結構面白いので非常にワクワクしながらお話を聞きに行きました。(聞き手:薬師寺秀樹)
理化学研究所 生命機能科学研究センター高機能生体分子開発チーム 基礎科学特別研究員
週末は家事・育児に精を出す2児のパパ。公園に行く機会が多いため、あそこはブランコが多い、あっちは砂場に猫の〇〇が多い、など近所の公園はおおよそ網羅している。
構造生物学なんですけど、どっちかというと生命の起源について研究をしていますね。 対象はやっぱりタンパク質です。タンパク質はありとあらゆる生物の現象を駆動させている物質なんですが、今現在あるいろいろなタンパク質が、どうやって進化してきたのだろうかということを突き詰めていくということをやっています。
今のタンパク質は、アミノ酸が大体300とか400残基くらいの長さに数珠つなぎになっているものです。大きいやつだとアミノ酸が1,000残基を超えるものもあります。でも、たぶん昔のタンパク質はもっと小さいものだったと考えられるんです。現在では小さくても100残基くらいですかね。でも100残基くらいの短いものであったとして、アミノ酸は20種類あるので、その多様性は、20100。大体10130です。
ちなみに、宇宙にある全ての原子の数が、10の80乗だそうです。
単純に考えると、そのくらいの多様性があるんですよ。でも、アミノ酸の配列によっては、数個の変異が入ればすぐ使えないものになっちゃうみたいなことってよくあるんです。そう考えると、多様性はたくさんあるけれど使えない配列もいっぱいあるということになります。10130通りの中から、生物が有用なタンパク質だけを選び出してきたことを考えると、もう奇跡に近いことになるんです。
その通りです。そのニワトリと卵の中枢にある分子としてRNAを合成する「転写」を担うRNAポリメラーゼがあります。このタンパク質の進化を追うことをテーマにしています。
その部分の主役はリボソームですね。基本的にリボソームはRNAでできていて、タンパク質がちょこちょこくっついている構造です。生命の起源を考える時には、このリボソームとRNAポリメラーゼの共進化を考えないといけないです。ところで、「RNAワールド」という仮説があるんですが、知ってますか?
そうです。なので、RNAが主体のリボソームの研究をしている人の方が圧倒的に多いんです。
RNAポリメラーゼの昔の形を知ろうとしています。 このRNAポリメラーゼも現在は巨大なんですが、活性の中心は80個のアミノ酸くらいの長さの「DPBB(Double Psi Beta Barrel)」という構造になります。このDPBB、調べてみるとRNAポリメラーゼだけじゃなくて、いくつものタンパク質に見られる構造なんです。
種々の酵素で保存されるDPBB構造
DPBBが進化することで、いろいろなことができるようになってきたんじゃないか、と考えることができます。なので、これをより初期的な状態にしていってみよう、ということをやっています。
よく見ると、このDPBBは前半と後半の構造がとてもよく似ています。ということは、もともとは、半分だったものが合体して今の構造を持ったのではないか?と考えられます。 そこで、まず、半分の配列の長さのものを作ってみて、この構造を取ることができるのか?ということ確かめてみたんです。
そうしたら、きちんと同じ構造を取ってくれました。 しかも構造生物学的にありがたいことに、構造解析のための結晶化が非常に簡単でした。どの変異体であっても100条件くらい試すと5〜6個は結晶化します。
そうなんですよ(笑)。比較的「固い」構造で結晶化しやすいタンパク質なんだと思います。なので、この配列だったら、幅広い条件でこの構造を取る。つまり、自然に発生した構造とも考えられる。しかも、80℃とか高温でも安定しているんです。
このタンパク質はアミノ酸が43個つながっているんですが、20種類のアミノ酸のうち、7種類はもともと使っていないんです。つまり13種類のアミノ酸でできている。なので、次は、アミノ酸の種類をもっと減らせるんじゃないか?と思ったわけです。
まずは、1種類ずつ減らしていきました。例えば、メチオニンがないバージョン、ロイシンがないバージョンという感じに。6種類のアミノ酸をそれぞれなくしたバージョンを作ったら、なんと、全部きちんとした構造を取ることがわかりました。
それだけじゃなくて、2種類なくしたバージョン、3種類なくしたバージョンもやってみたんですけど、それもちゃんと同じ構造を取るんです。
さらに…
最終的には6種類全部なくしたバージョンも作ったんですけど、これは溶液の中では構造を取っていないことがわかりました。
ですが…
もうルーティンで結晶化して構造解析する、ということをやっていたので、これも結晶化してみたら、なんと結晶が取れまして。構造もばっちりおんなじだ、ということが確認できました。
実は、この7種類のアミノ酸をコドン表で見てみるとさらに面白いんです。
そうそう。これをみると、この7種類のアミノ酸は、下の方に固まってるのがわかります。
今回、DPBBの構造を20種類のアミノ酸のうち、7種類のアミノ酸だけで再現できたんです。しかも、今回使用したこれらのアミノ酸は、分子構造が比較的単純なので、古代にもあったんじゃないか、と想像しやすいんです。だったら、生命の初期段階でもDPBBは作れるんじゃないか、と考えることはできると思うんですよ。
そこはすごくよく聞かかれるところですね。まぁ当然なんですけれども。 機能は正直まだよくわからないのですが、ただ、実験してみると、DNAと結合するということがわかっています。 このDPBB構造と似たようなβバレル構造が転写因子やリボソームタンパク質に見られます。なので、古代のDPBBもRNAなどの核酸と結合して、何かをしていたのかもしれないなと、今妄想しているところです。
ここらへんのすごい初期の進化って、突き詰めていくのが難しいんですよね。ある意味、妄想に妄想を重ねる形になっていくので。だから、実験的に作って、再現してみるということが一つの解決案だと思うんです。とりあえず今の時点で、RNAポリメラーゼはこのくらいまで単純化できたので、ここからもっと昔の進化などを見ていこうかなとは思っています。
そうですね。今回、配列を設計したり、構造を予測したりする際には、コンピューターシミュレーションをしていますが、自分ではできないところもあるので、構造バイオインフォマティクス研究チームのZHANG Kamさんたちにお願いしました。あと、AlphaFoldというAIを使ったりしています。
今回は、そのRNAポリメラーゼというタンパク質のコアが7種類のアミノ酸でできそうだ、というところまでできたわけです。
そうです。現在のタンパク質はアミノ酸を全種類使っているので、20種類もあるアミノ酸をつなげるためにどんな機能が必要だろうか、ということになるんですけど、RNAポリメラーゼのコア構造が7種類あればできることがわかったので、必要なアミノ酸は7種類まで減らすことができるはずです。
だから、リボソーム側の研究をやっている方たちが世界中にいっぱいいますが、彼らに対して「目標はこのくらいだよ」という指標が提示できたのかなと思います。
なので、「翻訳」班と「転写」班という感じでコラボをいろいろやっていけるといいな、と思っています。
今回は、実は、「生命の起源」という生物学のひとつの究極のテーマだった、という驚きからスタート。個人的な興味もあいまって、非常に面白かった。それと、技術が進んで、いろいろ思いついたことを実験的に確かめられるようになってる、というのを実感しました。この研究の内容は、プレスリリースもありますので、そちらもどうぞ。→「生命誕生初期のタンパク質を再現する試み」
理研OBで現在は神戸を中心に活動する事業開発人。分析化学、光学、バイオテクノロジー、ITなど幅広いバックグラウンドを持つ。理研をはじめとするアカデミアの技術・アイデアを事業にするため、アイデアを共有する場の開催から、資金調達、事業戦略立案など、さまざまな活動を行っている。
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