坂口あかね
理化学研究所生命機能科学研究センター 心臓再生研究チーム 研究員
兵庫県立大学でのタンパク質の結晶の研究と、国立遺伝学研究所でのマウスの発生の研究を経て、2018年から理研BDRで心臓の再生を研究する。趣味は紅茶・香水・料理 (ただし酒のつまみに限る)。
今回の木村研の坂口さんは平谷研の大字さんからご紹介いただきました。シュッとした見た目のわりに、直感で物事を決めたりするところがあって意外でした。直感派とでも言えばいいか。心臓の研究をされているけれど、その決め方もすごく直感的。非常に楽しくお話しをお聞きできました。(聞き手:薬師寺秀樹)
理化学研究所生命機能科学研究センター 心臓再生研究チーム 研究員
兵庫県立大学でのタンパク質の結晶の研究と、国立遺伝学研究所でのマウスの発生の研究を経て、2018年から理研BDRで心臓の再生を研究する。趣味は紅茶・香水・料理 (ただし酒のつまみに限る)。
そうですね。2018年に理研に入ったので、4年目ですね。
国立遺伝学研究所(遺伝研)です。相賀裕美子先生のところでお世話になっていました。
そうです。私が修士の時に森本先生がいらっしゃって。
そうですね。呉さんもそうですし、7人はいると思います。当時、マウスで何かやろうとすると選択肢は限られていましたね。
兵庫県立大学です。
中期日程試験の存在をセンター後に知って、出せるからとりあえず出した、という感じでした。
よく言われます……(笑)。
「なんで、そんなことしようと思ったの?」とか「その発想はなかった」みたいなことはよく言われます。
このラボは心臓の再生を目標としているので、再生に効果のある遺伝子や物質を探しています。論文にまとめ切れていないので全部はお話しできないですけど、ある物質を思いつきで打ってみたことがあって……。
心筋細胞って胎内にいるときは増殖能があるのに、生まれてしまうと増殖能をだんだん失っていくんです。ヒトでも大体1ヶ月くらいで、増殖しなくなります。これがどうも代謝経路が変わるからじゃないか、と言われています。そこで、どの研究室にも普通にある試薬を心臓の細胞に与えてみたんです。そうしたら、増殖能が少し維持できて、それでプロジェクトが一つ立ちました。
「その発想はなかった」と……。
また別の話で、細胞周期を制御するという物質があって、これも打ってみようかとやってみたのがあります。
心筋梗塞のモデルマウスは心臓の血管を縛る手術をする必要があるんです。ちょうど動物実験申請の承認が下りたのでその手術の練習をしている時に、手術の練習だけしてその後に何もしないのはもったいないと思って、せっかくだしこの物質を投与してみたらどうなるだろうかと……。他にも実験申請していた候補物質はいくつかありましたが、ラボに在庫の多かったものを投与してみました。そうしたら損傷部分が再生していたので、こちらもプロジェクトになって論文にもなりました。
その手術をするのがこの辺なんですけどね(と言って、突然心臓の模型が出てくる)。
ポケットに入れていました。説明するのに便利なんですよ。
ガチャガチャのおもちゃなんですけど、他の臓器もあるらしいですよ。作っているところが、こういう模型を作っている会社みたいで、結構正確なんですよ。
しかもせいぜい500円くらいですし。
そうなんです。なので、重宝しています。机の棚に並べていました。
でも、心臓は転がっちゃうので、レゴで作った犬の間に立てるように置いています。
赤が動脈で、青が静脈なので、上のあたりを糸で縛ってやると、そこから先に酸素が行かなくなるから、その先が壊死するんです。そこから先の心筋層の細胞が全部死んでしまう。それを、エコーを使って心機能を測定してから、サンプル取って輪切りになるように組織切片を作製していきます。切片にすると、左心室と右心室があるので、穴が二つ見えます。その穴の周りの筋肉に注目するとが、心筋細胞は増殖できない細胞なので、壊死した部分はペラペラに薄くなっています。壊死してペラペラになった部分は、心機能が低下して収縮するときの力が弱くなるので、エコーの波形で心機能を測定できるんです。そしてそのエコーはチームリーダーの木村さんがやってくれています。
そうなんです。エコー撮影は週に1回なんですけど、ブラインドテストじゃないと駄目なんです。手術などの実験をした人とエコーを撮る人が一緒だと、このマウスにどんな処置をしているか知っているから、こういう結果が出てほしいというその人の希望がやっぱり入っちゃうんですよ。そうすると、エコーを当てる時に傷の少ないところを無意識のうちに撮ってしまう、ということが起こり得ます。それを避ける必要があるんです。 例えば、手術したところより上のところでエコーを当てちゃうと、もちろんそこは健康な心筋細胞ばっかりあるからきれいに収縮するので、心機能が良く出ちゃうんです。でも、実験内容や仮説を知っているとどうしてもそこを無意識に撮りたくなっちゃうから、作業をした人とエコーを撮る人というのは分けなきゃいけないんです。何をしたかわからない状態であることが絶対必要なんです。 しかも技能的にも木村さんしかいなかった、ということもあります。機械の使い方とか、どこから超音波当てるかとか、そういったことをエコーの会社の方から教えていただいたんですけど、わたしは結局できるようにならなかったんです……。
エコーを当てる角度が難しかったりします。手術をすると心臓を糸で縛っているので、それが肋骨や肺と癒着しちゃって、胸の中で正常な向きでは心臓が収まってないんですね。例えば、傾いて収まっている場合、普通の角度ではうまく撮れないんです。そのあたりは経験値がものをいうところでもあって、木村さんにお願いしています。
本当は、手術、エコー、解析の担当を分けるのがベストですね。それぞれブラインド(何をやったかわからない状態)にしておくんです。解析のところでも、意図した結果が出る部分を抽出することはできなくもないので。
だいたい数ヶ月から半年くらいですね。私自身、もともとは発生学で7日くらいのスパンで実験をやっていたので、だいぶ気が長くなりましたね(笑)。
心筋梗塞のモデルだと、壊死した部分がペラペラと薄くなります。が、ある物質を与えると、その部分が心筋細胞の増殖によって再生してくれるので、心機能が良くなります。
そうです。心筋の厚さや拡張期と収縮期の差を測ることで、どのくらい回復しているかを計測します。この時、エコーの位置が悪いと、このエコー像が正しく撮れません。
違いますね。マウスの心臓はせいぜい2cmくらいの大きさですから、微妙なエコーの当て方で、データが変わってきます。なので、どの辺にどの角度で当てるか、というのが非常に重要になってきますし、恣意的な要素は排除する必要があるんです。
このエコー像のどこを数値化するか、という部分も非常に重要です。
同じ個体でもいくつかデータを取るんですが、取り方によってデータが変わってくるので、どこを取るか、というのは解析する人が決めることになります。なので、ここもきちんと正しくデータが得られるように解析ポイントを決める必要があります。なので、どういう結果が好ましいか、と仮説に引きずられると、やはり恣意的なデータになってしまいます。
そうなんです。
兵庫県立大学はタンパク質の結晶構造解析が強い大学で、こういう細胞培養は演習でやりました。好きな臓器を選んで培養する、という演習です。その中で心臓を選んだのは、動いていたから、というのが大きいです。実際に心臓の細胞を培養してみると、コロニーという細胞の塊ができるんですが、それが拍動していて。その中で、小さいコロニーが独立して拍動しているもの、大きいコロニーの中で中心はいくつかありながら協調して拍動するもの、大きいコロニーの中で中心それぞれに向かってバラバラに拍動しているものといろいろあって。それが見ていてすごく面白かったんです。他には心臓を取ったら一緒にくっついてきた肝臓や、大きいから取りやすかった大腿筋もやったはずなんですが、結果はまるで覚えていません……。やはり心臓のインパクトが大きかったんだと思います。 それで、実家に近い関東で、どこか心臓のできる研究室がないか、と探した結果が、遺伝研の相賀先生のところだったんです。東京大学の大学院説明会で、初めて先生にお会いして、お話しさせていただいたときに、「あ、この人好き!!!」と思って、あんまり研究の中身を詳しく調べないままに、門を叩きました。 実際しゃべると、我ながらけっこう雑な決断ですね(笑)

理研OBで現在は神戸を中心に活動する事業開発人。分析化学、光学、バイオテクノロジー、ITなど幅広いバックグラウンドを持つ。理研をはじめとするアカデミアの技術・アイデアを事業にするため、アイデアを共有する場の開催から、資金調達、事業戦略立案など、さまざまな活動を行っている。
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