呉 泉
理化学研究所生命機能科学研究センター 非対称細胞分裂研究チーム 研究員
中国出身。北海道大学水産学部にて魚類の生殖細胞の研究で修士を取得後、国立遺伝学研究所に移りマウスの生殖細胞の研究でPh.D.を取得。現在はマウスの脳の発生の研究をしている。趣味は水泳。ポートアイランド内にあるプールによく通っている。五行の考え方から名前に「水」が足りないということで、名前に「泉」が入っているらしい。
DNAの構造について意外な方法で研究を進めていた大字さんから、おもしろい研究をしている外国人研究者として今回の呉さんをご紹介いただきました。(聞き手:薬師寺秀樹)
理化学研究所生命機能科学研究センター 非対称細胞分裂研究チーム 研究員
中国出身。北海道大学水産学部にて魚類の生殖細胞の研究で修士を取得後、国立遺伝学研究所に移りマウスの生殖細胞の研究でPh.D.を取得。現在はマウスの脳の発生の研究をしている。趣味は水泳。ポートアイランド内にあるプールによく通っている。五行の考え方から名前に「水」が足りないということで、名前に「泉」が入っているらしい。
ネコとかペットを飼ったことはありますか?
病院に連れて行くと、獣医さんから「今このネコは3歳なので、ヒトで言うともう30歳くらいなんですよ。」みたいなことを言われたことはありませんか?
でも、どうやってネコの年齢とヒトの年齢を比較しているのか、わかりませんよね。
ですよね。だから獣医さんに聞いてみたことがあるんですが、それでもよくわからない。たぶん判断基準はないんです。獣医さんの経験的に「ネコの3歳はヒトの30歳」と言っているだけで、正しいか正しくないかはわからない。だからわたしはその時間を決めているのが何か、ということに興味を持っているんです。
なので、今は脳の発生に注目して、時間の進み方の違いを解き明かそうとしています。脳の構造って層になっているんです。奥の方に幹細胞がいて、神経発生期にその幹細胞が分裂するときに非対称に分裂して、幹細胞ともう一つは別の細胞に分化して、それを繰り返すことでどんどん脳の中に層が作られていきます。
はい、順番があります。元は同じ神経の幹細胞なんですが、時間が経つにつれて分化する細胞がどんどん変わっていきます。実は、この分化の順番がほぼ全ての哺乳類に保存されているんです。最初にできるのが底側の深層ニューロンで、その後にできるのが上層側の表層ニューロンです。ニューロンの種類が違いますが、細胞ができるタイミングも、並ぶ位置も、ヒトだろうがフェレットだろうが同じです。
その細胞の分化の順番と遺伝子発現に相関があるんです。底側の部分の時は遺伝子Aが発現して、上層側を作る時は遺伝子Bが発現して、という具合に。これも種に関わらず同じです。ただ、実際にはマウスとフェレットとヒトでこのプロセスにかかる時間が違うんです。 マウスは1週間でこのプロセスが全部終わるんですが、ヒトの場合は3ヶ月かかる。じゃあ、なんでこの時間が違うのか?というのを解き明かそうとしています。
実験とシミュレーションですね。まず、同じ場所にいる細胞は同じ時期にいるという仮説を立てて、シングルセルRNA-Seqをやります。細胞一つ一つの遺伝子の発現パターンをチェックするということです。これを元にバースデースコアというのを出します。そうして、これを一つ一つの細胞から出たデータから繋げると時間経過に対しての発現レベルの変化をグラフ化できます。
そうです。ここからはシミュレーションも使います。このグラフのパターンをどうやったら引き伸ばせるのか?そこに関係している要素を探しています。
関係する遺伝子の発現量や拡散速度、順番とかたくさんあります。そういう要素を偏微分方程式に変数として組み込んでシミュレーションするんです。
タンパク質の分解速度がちょっと違うみたいだとなったら、そういう細かいものも入れたりしてみています。例えば、ここのパラメーターを変えると、立ち上がりが変わってパターンが引き伸ばせる、とか。
でも、まだまだ30倍というマウスとヒトの時間の違いは説明できていないんです。
昔は人間の平均寿命って40代とかだったけど、今後もっと伸びて行くと言われていますよね。
それはそうなんですが、成熟した後は遺伝子の発現パターンが複雑すぎて、種間で比較できないんです。それが、脳の発生に限れば比較できる。なので、ここからアプローチしているんです。
60年生きるマウスなんていうものができたら面白いですけど、1世代では完結できない壮大な研究になりますね(笑)。
16年ですね。最初は北海道大学の水産学部に行きました。
そうです。そこでチョウザメやウナギの生殖の研究をしていました。人工授精の研究などをやっていたんですが、その他にも特別な餌じゃないと稚魚から成魚になる段階で全滅しちゃうなど、いろいろおもしろい研究がありました。
しかも、魚類は染色体のXYが全然わからないんですよ。
そもそもXYじゃないかもしれない。結局DNA配列読まないとわからないです。
それで、次はマウスの生殖細胞を使った遺伝の研究をしようと思い、遺伝研に行きました。その後、理研に移って、今は脳の研究ということになっていきます。脳は運命を決定するポイントがいくつもあっておもしろいかな、と思いました。
おもしろいかどうかでやっぱり判断しますね。あと、未来があるか。おもしろくても未来がないとやりたくないですね。他の研究者がすでに証明してしまったものを後追いしても「その先」はないですし。
呉さん本人のエピソードではないので本論には盛り込みませんでしたが、ウナギの産卵場所の特定にまつわるお話を少しだけ。太平洋に出る調査船があって、それに乗ってもうすぐ産卵しそうなウナギを採るんだそうです。それに発信機をつけてもう一度海に放して、どこで産卵しているのか調べようと。何匹も採れるものではないし、放した後もサメに食べられたりしてちゃんと追跡できなかったりするそうです。だから30年くらいかかって少しずつわかってきた、というところのようです。他にも、中国のお名前の話とか……。全然サイエンスじゃないんで、書かないことにしましたが、めちゃおもしろかったです。
理研OBで現在は神戸を中心に活動する事業開発人。分析化学、光学、バイオテクノロジー、ITなど幅広いバックグラウンドを持つ。理研をはじめとするアカデミアの技術・アイデアを事業にするため、アイデアを共有する場の開催から、資金調達、事業戦略立案など、さまざまな活動を行っている。
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