森田 梨津子
理化学研究所生命機能科学研究センター細胞外環境研究チーム 研究員
東京理科大学にて博士号取得。その後、理研に移り毛髪がどのようにできるのか発生過程の研究に取り組む。趣味はエア引っ越し。昔から住宅や建築を見るのが大好きで、最近は不動産サイトの写真や間取りを見ながら脳内引っ越しに勤しむ。個人的なオススメはR不動産。
今回は縁の下の力持ち芳村さんからのご紹介で、森田さん。実はこのインタビューは1月に行われたのですが、Nature誌に論文を投稿中ということで、出版されるまで公開を保留していました。ようやくNature誌に掲載された、ということで無事公開に至りました。その論文の裏側をどうぞ。(聞き手:薬師寺秀樹)
(プレスリリース「毛包幹細胞の発生起源を解明-筒状の区画に幹細胞を誘導する「テレスコープモデル」の提唱-」)
理化学研究所生命機能科学研究センター細胞外環境研究チーム 研究員
東京理科大学にて博士号取得。その後、理研に移り毛髪がどのようにできるのか発生過程の研究に取り組む。趣味はエア引っ越し。昔から住宅や建築を見るのが大好きで、最近は不動産サイトの写真や間取りを見ながら脳内引っ越しに勤しむ。個人的なオススメはR不動産。
3次元で深さ方向に複数の平面で画像を撮って、それを積み上げて3D画像にします。それを一定間隔ごとに撮影すると、パラパラ漫画みたいな動画になります。このパラパラ漫画のことを「タイムラプス」と言います。さらに、細胞や組織を生きたままタイムラプス観察する手法をライブイメージングといいます。
蛍光タンパク質を使って、組織の中の見たい細胞や構造を標識しておいて、2光子顕微鏡を使ってその蛍光を検出します。2光子と言う通り、光子2個分のエネルギーを同時に蛍光タンパク質に与えて、光らせるんです。一般に、私たちの体は波長の長い(エネルギーの低い)光のほうがよく通ります。蛍光タンパク質を光らせるために、光子2個を使うことができれば、1光子のもつエネルギーは半分にできて、その分使う光の波長を長くできます。波長が長くなると、対象物の深くまで光が通るようになります。
あと、2光子だとサンプルの光によるダメージが小さいという利点がありますね。そのおかげで比較的長時間の観察が可能になるんです。
そうなんです。結構、長く見ますからね。
ありますよ。
これはマウス胎仔のホホヒゲの毛包の発生初期をタイムラプス観察(ライブイメージング)した画像です。
そうなんです。その過程を撮影しています。上皮組織が、下向きに陥入していって、毛乳頭(間充織)などを覆っていきます。その後、毛乳頭との相互作用の結果、上皮細胞が分化すると、今度は上向きに流れていき、表皮の外に出ていきます。これが毛で、この時できる穴が毛穴です。
毛穴の底から中腹くらいで細胞が分化してるんです。細胞は、分化して別の細胞に変身するときと、増殖(自分と同じコピーを作る)するときがあるんですけど、毛包の中には分化する細胞が多いエリアと、増殖する細胞が多いエリアとがあります。
増殖エリアでは細胞はよく分裂して、新しい細胞を次々生み出していくんですけど、そこで生み出された細胞が、その場を離れると分化の方向に入っていって、その後はあまり分裂せず、徐々に分化が進んで毛になっていきます。
そうですね。毛は生涯を通して、成長しては自然に抜け落ち、また生える毛周期と呼ばれるサイクルを繰り返します。この毛周期の中で、毛を実際に作っている毛包下部の構造は何度も再生を繰り返します。この再生を繰り返すことができるのは、毛包に「幹細胞」という毛包のすべての構成細胞を生み出す能力を持つ細胞が保持されているからです。これは毛包という器官の大きな特徴です。
まさにそれが研究テーマです。
毛包などの器官が正しく機能するためには、幹細胞や分化した細胞が正しく配置して連携する必要があります。「胎児期に毛包の形が作られる過程で、幹細胞や分化細胞がどのように生まれてくるのか」というのを、毛包発生のタイムラプス画像のなかで細胞を追いながら解析しています。そして、一旦追跡したものを時間を巻き戻してみると、最終的に分化した細胞が元々どこにいたのかということがわかるんです。それを使って、幹細胞がどこから生まれてくるのかなというのを研究しています。
そうですね。発生の初期ってペラペラの表皮なのですが、そこの一部分に (詳しいメカニズムは割愛しますが) 毛包の原基ができて、陥入して、そのうちの一部の細胞だけが幹細胞になるんです。
そう思いますよね。実はこれまで、どこから幹細胞が生まれるのかというのがほとんどちゃんと解析されてこなかったんです。
私たちのライブイメージング技術では、毛包の発生の初期から毛ができる最後のほうまでをずっと1細胞レベルの解像度で追えるので、この中で細胞を追って、時間を巻き戻して見れば、幹細胞になる細胞って元々どこにいた細胞なのかというのが見えるんじゃないかな、見つけられるんじゃないかな、というのが研究の最初の着想です。
確かに、最近は自動トラッキングの技術も開発が進んできているんですけど、残念ながら、私が扱っている毛包や上皮組織ではそれを適用することがまだ難しくて、手作業なんです。
細胞が多すぎるんです。かつ、核と核の間にほとんど隙間がない、非常に密なんです。
イメージングでは、細胞分裂しても細胞を見失わないように核を蛍光タンパク質で標識しているのですが、発生期って、細胞が非常に早く、細胞質をあまり作らないまま次々と分裂していくので、細胞の体積のほとんどを核が占めるようになります。だから、核と核とがすごく密に詰まったような絵になるんです。
核は丸く見えるんですが、この丸が二つ近接すると、二つなのか一つなのか結構わからないんです。
さらに言うと、人間の目で見てもたまにわからないです。人間の目で見てわからないものは機械もわからないので、人工知能とかも盛んに使われつつありますけど、なかなかそこを識別できるクオリティの技術は手が届く範囲にはないんです。なので、最終的には手作業になります。
動きをつけると、なんとなくこっちからこっちに移動したな、みたいなのがわかる。そういう情報も加味しながら、トラッキングをずっと地道にやっていくんです。
細胞を追跡している時期や期間が様々なので一概には言えないですが、細胞系譜の総数でたぶん1,200細胞くらいは超えていると思います。これが24時間から72時間程度追っている間に分裂して、追跡終了時点では2500細胞くらいだと。
そうですね。この作業はさすがに私1人ではしんどくて、ラボのテクニカルスタッフの方や短期のパートタイムで来た学生さんにも手伝ってもらったんですけど、この学生さんは「研究って本当に地味な作業の繰り返しなんですね」と言って帰っていきました。研究の真実の一端は伝えられたかなと(笑)。
そうですね(笑)。
途中、たぶん5回くらい挫折しています。いつ論文にまとめられるか不安に駆られて、「私辞めます」と退職宣言をしたことがあります。
やっぱりせっかくやったので論文に出したいなという、その一念だけですね。ここまで来るのに、多くの方に助けていただいていますし、何よりも自分で論文を出さずに終わるのはさすがに悔しいなと思って。
動画を見ていただくとわかるかもしれませんが、毛は実は複数の異なる細胞層が合わさってできるんです。毛に分化した複数の種類の細胞が表皮に向かって上に移動していくなかで、死んで、角化して、より合わさることで、いわゆる毛になります。
そうです。細胞層が列を乱さず並んで、きれいに上に向かって移動していくんです。細胞層は8層くらいあって、細胞が生み出されて順に上に上がっていくんですけど、そのタイミングがぴったり合っているんです。これって、結構すごいことだと思いませんか?
それで、このタイミングがぴったり合っているとまっすぐ生えるんです。でも、このタイミングがちょっとずれるとゆがみが生じて、それがいわゆるくせ毛を作るといわれています。
まぁ、結構高度なチームプレイが必要ですから……。
今回の研究では、上皮細胞由来の毛包幹細胞の起源を明らかにして、あとは(今回詳しくお話していませんが)毛包の形作りと構成細胞の正しい配置を同時に可能にする新しい毛包の発生様式も見いだしました。今度は器官の形や器官内の空間的な違いがどう生まれていくのかというのに興味を持っています。
器官を作るときの「ここは長く伸長するんだよ」とか、「ここで分岐するんだよ」みたいな、形態の多様性を生み出すパターンの原型を、細胞同士、組織同士の相互作用を解析していくことで明らかにできるんじゃないかなと考えています。器官の多様性はどう生まれるのか。
毎度話を聞くたびに思うことなんだけど、研究者さん達の地道な作業の量には恐れ入る……。何千パターンも細胞作ったり、それらを計測するシステムを作ったり、なんなら手作業でカウントしたり……。 Nature誌掲載、おめでとうございます!地道な作業に乾杯!
理研OBで現在は神戸を中心に活動する事業開発人。分析化学、光学、バイオテクノロジー、ITなど幅広いバックグラウンドを持つ。理研をはじめとするアカデミアの技術・アイデアを事業にするため、アイデアを共有する場の開催から、資金調達、事業戦略立案など、さまざまな活動を行っている。
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