信夫 愛
理化学研究所 生命機能科学研究センター 分子機能シミュレーション研究チーム 研究員
ヘブライ大学で学位取得後、東京大学、東京工業大学を経て理研へ。もともと問題を解くことが好きで、わからないことがあったら徹底的に調べて解決することに魅力を感じて科学の世界へ。趣味は体動かすこと、外で過ごすこと。特にジムでのトレーニングは仕事以外で自分のベストを尽くすことができるので、とても楽しい。
前回15分で1011種類のペプチドライブラリーを作れるという話を聞かせてくれた和田さんが、所内セミナーで聞いた英語がめちゃくちゃ上手で印象に残っているので、どんな研究している人なのか聞いてきてほしいと紹介してくれたのが、今回の信夫さん。メールでアポイントを取ってみたら、日本人なんだけど、人生のほとんどをイスラエルで育ったため、日本語より英語の方がスムーズにコミュニケーションできるかもしれないとのこと。なので、研究の細かい部分は英語でネホリハホリしてきました。(聞き手:薬師寺秀樹)
理化学研究所 生命機能科学研究センター 分子機能シミュレーション研究チーム 研究員
ヘブライ大学で学位取得後、東京大学、東京工業大学を経て理研へ。もともと問題を解くことが好きで、わからないことがあったら徹底的に調べて解決することに魅力を感じて科学の世界へ。趣味は体動かすこと、外で過ごすこと。特にジムでのトレーニングは仕事以外で自分のベストを尽くすことができるので、とても楽しい。
はい。学位はヘブライ大学で取りました。
子どもの頃に親の仕事の関係でイスラエルに行ったんです。日本に来たのが4年前かな。今5年目です。まだまだ日本語にはすごく苦労をしています。特に書類とか手続きが大変です。漢字は読めるんですけど、すごく時間がかかるんです(笑)研究の話は英語でする方が楽ですね。
外国人として生きていくのが私にとって大変でした。
そうなんです。イスラエルには、アジア人ってあまりいないので、やっぱり珍しいんですよ。本当に日本に来てすごく楽になったのが、外を歩いてて誰も私のことを見ないんです(笑)。誰もびっくりしないの。それが一番楽になったことですね。
アイデンティティについて、自分が将来どうしたいか、自分が何なのかとか、いろいろ考えて、日本に帰ることを決めました。
日常生活は日本語のコミュニケーションでまだ苦労していますけど、でも理研にいる限りはすごく楽ですね。サイエンスの世界は基本的に英語が共通言語ですから。
今の環境はベストだと思います。本当に毎日感謝しています。
分子シミュレーションですね。タンパク質のシミュレーションとかをやってました。
学位はフィジカルケミストリー(Physical Chemistry | 物理化学)なんですけど、コンピュテーショナルケミストリー(Computational Chemistry | 計算化学)でもあるって感じですね。
うちの研究室は、今リガンド・バインディングをやっています。タンパク質に結合する物質をリガンドというんですが、そのリガンドとタンパク質のバインディング(結合)をシミュレーションしようとしています。創薬研究の一環ですね。
それはドッキングシミュレーションですね。それより、リガンドとタンパク質、どうやって結合していくかを見るためのシミュレーションですね。
リガンドがタンパク質に結合するときにいろんなエネルギー状態になるのですが、どの経路を辿るのかとか、どのくらいの時間で結合するのか、結合したらどのくらいで外れるのか、とかですね。
薬というのは、これらの情報を出すのがとても重要になります。
外れるのも重要です。すぐに外れる薬はあまり効率的ではないんです。とはいえ、ずっと永久的にそこにいられても困るから、いつか外れてほしい。リガンドデザインというんですけど、シミュレーションの中でリガンドの形を少し変えたりすると、もっと簡単にくっつくとか、もっと長く結合したままになる、なんてこともあります。
実は今シミュレーションできる時間って、nsec(ナノ秒=1秒の1,000,000,000(10億)分の1)からμsec(マイクロ秒=1秒の1,000,000(100万)分の1)までです。
普通に考えたら一瞬です(笑)。
実際リガンドとタンパク質が結合する時間はもっともっと長いので、実はそれじゃ足りないんですよ。だからシミュレーションといっても実験なので、毎回結果が異なってしまったりして、同じシミュレーションを何回もやることになるんです。
原子ひとつが玉だとして、玉と玉が古典力学のバネみたいな形で繋がっているイメージです。高校くらいの教科書だと玉が二つとかですけど、分子の場合はその玉が無数にある。そうすると計算式では答えが出なくて、シミュレーションになるわけです。
玉が無数にあって、それらが力を及ぼし合っているので、あっちが動くとこっちが引っ張られ……みたいなことを延々と繰り返すのを、時間を区切ってコマ送りのようにひとつひとつ追いかけていく感じになります。分子動力学というんですが。
そうです。なので、いろんな条件で何度も計算することになります。そうすると、こういう構造になると安定するという、エネルギーの谷みたいなのが出てくるんです。
ただ、時間分解を細かくやっていくと、もうひとつ谷が出てきたり、実は二つの状態を行ったり来たりしているのが見えてきたりするんです。
そういう自分が見たいと思う状態を見るためには、そのための計算手法も作らないといけないんです。
タンパク質って言っても、細胞の中にあるタンパク質を相手にしているわけですが、細胞の中って水がいっぱいあるんですよ。
計算にというか、構造に影響するので、シミュレーションの中に組み込みます。
この水も動くわけです。
そうです。ものすごく密な状態を計算していくことになります。
私ですか。研究室にあるサーバでもやりますし、富岳でもやります。
富岳はやっぱり速いです。
元々、計算機でモデルを作って、自分の世界を作るのがすごく面白かったんです。必ずしも薬に関係あるというわけじゃないけど、こういうシミュレーションにすごく興味を持っていたという感じですね。
今までやっていた研究、理研でやっていた研究は、タンパク質とリガンドのシミュレーションで、手法を開発してきたので、今はちょっとバイオロジーにも興味を持ちはじめて、創薬の研究をしてみたいなと思います。
ところどころ細かいところは英語でしたが、ほとんど日本語でした。帰国子女とはいえ、日本での生活は大変なんだろうな、という予想に反して、日本・理研での環境が完璧だとお聞きし、妙に納得。計算は、とりあえず計算機に放り込んでおくというわけにはいかずさまざま苦労があるんだな。というか、シミュレーションの対象の数でいうと、水が圧倒的に多いというのはびっくり。まぁ、考えればそれはそうなんだけど……。
理研OBで現在は神戸を中心に活動する事業開発人。分析化学、光学、バイオテクノロジー、ITなど幅広いバックグラウンドを持つ。理研をはじめとするアカデミアの技術・アイデアを事業にするため、アイデアを共有する場の開催から、資金調達、事業戦略立案など、さまざまな活動を行っている。
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