江川 史朗
理化学研究所生命機能科学研究センター 形態進化研究チーム 基礎科学特別研究員
専門は脊椎動物の進化形態学。恐竜の生物学的側面が興味の中心。東北大学で博士号取得後、Yale大学ピーボディ博物館でのポスドク経て、現在に至る。学問以外では、学生時代の柔道や音楽活動の経験が氏のルーツになっている。
フナの三品さんから、キャッチーな研究といえば恐竜ですよね、ということで紹介された江川さん。恐竜の研究!ワクワクが止まらない!しかし、恐竜の研究って博物館とかでするんじゃないの?なんで理研なの?BDRって生物学の研究所であって、地学とか地質の研究はしていないはずなんだけど、どんな研究なんだろう……?(聞き手:薬師寺秀樹)
理化学研究所生命機能科学研究センター 形態進化研究チーム 基礎科学特別研究員
専門は脊椎動物の進化形態学。恐竜の生物学的側面が興味の中心。東北大学で博士号取得後、Yale大学ピーボディ博物館でのポスドク経て、現在に至る。学問以外では、学生時代の柔道や音楽活動の経験が氏のルーツになっている。
強いて言うなら、主に鳥につながる系統を対象にしています。ティラノサウルスなどに代表される獣脚類という系統です。恐竜は絶滅しちゃった生き物なので、生物学的な側面となるとなかなか解析がしにくいじゃないですか。となると、現代まで手がかりが残っている系統が一番議論しやすいわけです。なので、直接の子孫が残っている獣脚類は、鳥類を手掛かりにすることでわかってくることが多くあります。という感じで、「鳥類を使って恐竜の研究をやっている」という状況です。
まあそうですね。目立つ、キャッチーなところですね。
恐竜少年でしたね、はい(笑)。でも、化石採集にはそこまで興味が湧かなくて、どっちかというと生物学の方に興味が寄ってました。食用のニワトリを解剖したりする子供でした。
なるほど。そのへん世代によってだいぶ認識が違うかもしれないですね。今のちびっこは当たり前のように恐竜は鳥だという教わり方ですよね。
アカデミックな世界では、Yale大学のリードによって70年代前半くらいから手堅い証拠が挙げられつつあって、80年代にはより現代的な系統解析によっても支持され始めました。この頃にはもう大体の恐竜の研究者は賛同していたと思うんですけど、その後も少し論争が尾を引いていたみたいです。いずれにせよ、アカデミックには、20世紀の間には完全にほぼ決着はついていたという感じですかね。といっても僕もリアルタイムで体感した訳ではないので、歴史を”勝者”の物語として読み解いてしまうホイッグ史観からは完全には逃れられてないとは思いますが。
そうですね。
鳥の起源を恐竜に求める話は実はかなり古くからされていて、ダーウィンのブルドッグと呼ばれていたトマス・ヘンリー・ハクスリーが「鳥と恐竜は何か似ているな」という話をし始めたのが最初ですね。ということで、実は進化論の黎明期から鳥と恐竜の関係性は指摘されていました。
20世紀になって注目されたキッカケは、手首の関節でして。普通のトカゲと鳥では関節の曲がる方向が違うんですが、その鳥的な特徴が一部の恐竜にも共通しているということが指摘されるようになりました。そういう現代的なセンスに基づいた発見を皮切りに恐竜の古生物学がすごく盛んに盛り返してきたので、それを恐竜ルネッサンスとかいったりするんですけど。
逆ですかね。最近4本脚で歩くようになっちゃったんです。そういう論文が最近出ていますね。
もうコロコロ変わりますね、本当に。ティラノとか、最近は毛がもふもふしてますしね。
ちょっと話はスピンオフしちゃいますけど、恐竜の復元図って僕はけっこう個人的に好きで、本当にコロコロ変わるんですよ。その時代時代の考え方のスナップショットみたいになっていて。この時代はこういうふうに考えられていたからこういう復元になって、この時代ではちょっと変わったからまた別の復元になってという。研究史が分かるので個人的には好きなんです。
完全骨格じゃないからですね。大体1個体のうち、10パーセントくらいの骨が出ていたら、けっこう出ているほうだと思います。
近縁種と当てはめていくんですよ。逆に言えば、近縁種がわかるときだけああいう図を描いているという感じですかね。
その種やその系統にしかない特徴があれば、やっぱりこの系統だと言えますかね。化石はゲノム解析ができないので、形態だけで系統樹を書くんです。大雑把に説明すると、系統樹を書くときにとりあえず祖先にはない特徴・一部の生物しか持っていない形質というのを調べてきて、その新しい特徴を持っているやつどうしを一つのグループとして考えるんです。そういうのをどんどん、この動物とこの動物は同じ特徴を持っているから一つのグループ、また別の特徴を持っているやつをまた一つのグループというふうに、系統樹を書いていきます。そのときに使われた特徴的な形質をもっているものが見つかれば、その動物はここのグループだというふうに分けています。
恐竜のゲノムはなかなか難しいですね。配列の読めるDNAはちょっと大変そうです。数十万年くらいはさかのぼれるらしいんですけど。でも、タンパク質はかなり長いこと残るらしくて。
アミノ酸配列は難しいんですけど、最近、面白い研究があります。タンパク質って立体構造をつくるんですが、その立体構造だけ保存したまま、中のアミノ酸分子だけ入れ替わるみたいなことが起きるんです。
本当に化石みたいに。骨ってリン酸カルシウムとコラーゲンの物体じゃないですか。これが鉱物に置き換わって化石になるじゃないですか。それとまったく同じことがタンパク質にも起きているらしくて、タンパク質の形だけは保存されて、その中の構成要素が入れ替わっている。なので、免疫染色といって抗原抗体反応を使って特定の形をしたタンパク質を検出する手法があるんですが、形が保存されているからそれはできる、という研究が近年あったりします。いまやティラノサウルスで免染をする時代になりました。といっても、まだまだここ数年の話なので、もしかしたらまたひっくり返るかもしれないんですけどね。恐竜のDNA配列が見つかったという話も1990年代にありましたが数年でひっくり返っちゃったので。
なので同様に化石免染の研究もちょっと今後の様子を見守らなきゃいけないんですけど、場合によってはもしかしたら本当にちゃんと生物学的な意味のあるデータなのかもしれない。
恐竜の化石から得られる情報は、基本的には形態についての情報なので、恐竜の進化は主に形態情報に基づいて明らかにされてきました。なので、化石を使わずに生物学的な研究をするにしてもやっぱり形態の研究の方がしやすいと考えてました。そんなこんなで「形態……地質学よりも生物学が好き…..特に解剖学…..しかしもっと生命科学っぽい内容まで知りたい…..自分のオリジナリティを出すためには….」とブツブツと学部生時代に考えてみまして、ここはやはり鳥の発生生物学かなという結論に至りました。理研にやってきたのもその延長です。発生生物学は実験環境が整っていないとなかなかきついところがありますから、どうしてもそれなりに設備があるところじゃないと大変なんですよね。
たしかに、大昔のことを議論しようとするなら、それなりのロジックが必要になってきますよね。ちなみに、進化を発生と絡めて議論するのは何かと科学哲学的な思考が求められるので、そういうディスカッションができる環境があるのも理研の魅力でした。
鳥にいろいろたくさん特徴があるじゃないですか。それって全てが全て、最近獲得されたものじゃなくて、ある特徴はこの時代に獲得されて、またあるものはこの時代に獲得されてって、どんどん昔からの積み重ねで特徴が蓄積されてきたわけです。なので、鳥の持っている特徴のうち、恐竜時代に獲得された起源の古いものに関して発生生物学をやれば、恐竜時代にどういう発生生物学的な変化が起きたのかを推論することができるんです。
なるほど。じゃあもうちょっと細かく説明してみると…..化石記録を見ると、だんだんと進化の過程で形が変わって恐竜になっていくのが見て取れるじゃないですか。どの動物も最初は受精卵から始まる以上、進化の過程で体の形が変わったということは受精卵から大人の形に変わっていく過程のどこかで、発生がどうにかこうにか進化したはずですよね。その発生学的な変化というものが何かというのを知りたいと思っています。それをやるには、祖先状態のままの動物と、特殊化した状態の動物の発生を比べて、形の違いは発生のこのへんが変化した所為だろうと推論ができる。
そうです。まさにそんな感じの考え方です。今生きている2本脚動物と3本脚動物の発生プロセスを比べて、なんでこいつが3本脚になるかが発生学的にわかったとするじゃないですか。そして化石記録を見て、進化史のこのへんで3本脚になったとするじゃないですか。となると、こいつの持っている3本脚化発生プロセスは、進化の過程のこのへんで獲得されたんじゃないか、みたいな、そういう考え方をする研究をしています。これが進化発生学の一番基本的なナイーブな考え方です。でも発生と進化の関係性は多分もっと複雑で、これに更に輪をかけて難しい進化現象がまとわりついてきます。今やってる研究も、この基本的な考え方から一歩外に出た感じになっています。
これまでは、鳥と恐竜の大腿骨のL字型になっている部分の研究をしていました。今後は大腿骨を動かしている筋肉の研究をしたいと思っています。
はい。筋肉まで視点を広げると、形態だけじゃなくて機能についても思索を深めることができます。筋肉の動かし方の研究は力学シミュレーションが使えるんです。恐竜の時代も、今の時代も、基本的には重力とか慣性力は同じじゃないですか。だから、シミュレーションで筋肉の動かし方は推論ができる。そういう部分は発生生物学よりもバイオメカニクスで得意なアプローチです。
発生と機能はそれぞれ、生まれる前の現象・生まれた後の現象と分けて捉えられがちでしたが、両者を同じ俎上に乗っけて進化の議論をする、ということに挑戦したいと思っています。そういう他所からの知見も盛り込んで、「一生の内に、胚発生もするし運動もしている恐竜。そして、胚発生と生後の運動はそれぞれの都合にあわせて別々の要求をしてくるんだけど、それぞれの都合が結構うまいこと一個体の中で矛盾しないようになっている」みたいな感じで、恐竜を生々しい生物然としたものとして描くのが目標です。
そうですね。特に恐竜のアニメーションとかがすごくリアルになるかもしれないですね。 アプローチは違いますが、目指すところは恐竜画家や映像作家の方と同じかもしれません。
それがたぶんジュラシックパークくらいの時代で。もうちょっと2000年代くらいになってくると、実は走れなかった、みたいな話も。
はい(笑)。姿勢はゴジラ型じゃなくて水平なんですけど、競歩みたいな感じかもしれない、みたいな話にはなっています。
けっこう本になってるかな? 微妙なところかな。
あ、はい(笑)。40歳くらいになったら頑張ります。
恐竜ということで、かなり勝手にワクワクしながらお話をお聞きしました。自分が子供だった頃と今とでは随分復元のイメージも違うし、かつて観ていた映画の復元イメージも当時の学説を反映しているので、その変遷をなぞった感じ。にしても、最近の恐竜のなんとカラフルなことか。30年後とかに見直したらきっと面白いんだろうな。
理研OBで現在は神戸を中心に活動する事業開発人。分析化学、光学、バイオテクノロジー、ITなど幅広いバックグラウンドを持つ。理研をはじめとするアカデミアの技術・アイデアを事業にするため、アイデアを共有する場の開催から、資金調達、事業戦略立案など、さまざまな活動を行っている。
2026年5月27日 BDRニュース
BDRの研究ネホリハホリ
壊れた肺は、もう一度つくり直せるのか
桂廣亮 上級研究員 100年前のパンデミックを引き起こしたインフルエンザウイルスを人工的によみがえらせる――そんな衝撃的な研究との出会いが研究人生の出発点だったという桂さんに、現在に至るまでの軌跡をいろいろネホリハホリ聞いてみました。
2025年10月1日 BDRニュース
BDRの研究ネホリハホリ
左右非対称性から広がるロマンの話
石橋朋樹 基礎科学特別研究員 物理の研究室で生物の謎を解いてる人で、難しいことをおもしろく話してくれるよと太鼓判を押されたので、ネホリハホリしてきました。
2025年7月8日 BDRニュース
BDRの研究ネホリハホリ
研究室を支える屋台骨
木下聖子 アシスタント このシリーズ初のアシスタントさんですが、キャリアのほとんどを研究室アシスタントとして過ごした筋金入りだとか。研究室アシスタントという仕事について、ネホリハホリしてきました。