後藤 弘子
理化学研究所生命機能科学研究センター 比較コネクトミクス研究チーム 研究員
京都大学大学院にて博士号(医学)取得。現在は、女性のライフイベントを通した生物学的な変化に興味をもち、研究を進める。1児の母。最近、趣味のカメラが再沸中。1日1枚を日課とする。
今回はネホリハホリ初の女性研究者。金城さんに「おもしろいひとです」と紹介され、インタビューのアポを取ってみたら、どうやら産休から帰ってこられて少し経ったところらしい。自分も含めて男性とはまた違った話が聞けると思うとドキドキ……。(聞き手:薬師寺秀樹)
理化学研究所生命機能科学研究センター 比較コネクトミクス研究チーム 研究員
京都大学大学院にて博士号(医学)取得。現在は、女性のライフイベントを通した生物学的な変化に興味をもち、研究を進める。1児の母。最近、趣味のカメラが再沸中。1日1枚を日課とする。
そうなんですよ。ウチのラボは子育てしている人が多いので、お昼にやることが多いんですよ。
(編集注:このインタビューはお昼休み明けに行われました。)
本当はわたしも飲みたいんですけど、今授乳中なので。
ちょうど1歳になりました。
夜は結構慣れました。少し前までは、起きて、あげて、寝て、というサイクルでしたね。
復帰して半年くらい経ちますからね。
子どもが6〜7ヶ月くらいで復帰しましたね。
研究者は結構早く復帰する人が多いですね。
自分で進めないと研究が止まっちゃうんで。
でも、実験動物や細胞の維持とかはラボの人にやってもらってました。
そうなんです。制度上はもっと休暇を取れるんですけど、早い人だともっと早く復帰してたりします。すごい人は、出産の前日まで細胞の継代してから病院に行く人とかいます。
補助員さんは、今、来てもらってます。半年間なんですが補助員さんをお願いできる制度があって。タイミング良かったのか悪かったのかは微妙ですけど、産休に入ったのがラボの立ち上げの時期で、実質的に実験を開始する前に休むことになったので、むしろ今来てもらっているというのが助かっています。
やっぱり復帰するときはすごいドキドキしました。でも、みんなウェルカムな感じで嬉しかったです。
自分自身の体がどうなっているかというのにすごく興味があるんです。睡眠がどうなってるのか、とか。だから以前所属していた研究室では、睡眠の研究をやっていました。睡眠の研究って基本的にはオスのマウスを使うんです。メスだとホルモンの関係で、睡眠量が変わってしまうので。でも、メスの睡眠量がホルモンによってなんでそんなに変わるのか、というところはあまりわかっていなくて、そこに興味を持ち始めました。
基本的には、オスは性周期がないので睡眠量は一定なんですが、メスだと発情前期になると睡眠量が減るということが知られています。その後、発情後期に入ると睡眠量が戻るんです。
睡眠状態はうつ状態とも関係が深いと言われていますが、更年期や出産直後の産後うつのように体内のホルモン量の変化が激しいときにうつ状態になりやすいことと睡眠量が変化することに関係があると考えるようになって、そこから女性のライフサイクルに関係する研究ができたらな、と思い始めたのがきっかけでした。メスのマウス、女性の体を調べるのが面白いな、と思っていたところに、今のラボの立ち上げの話があったんです。ちょうど、その時考えていたテーマにドンピシャだったので、コンタクトを取って、ラボに加えてもらいました。
でも、4月からラボに加わる予定だったんですけど、その前の冬に妊娠がわかって……。
でも、自分の興味のあるあたりを実際に自分で体験したわけです。産後うつっぽいのとか。
大きい小さい、気づく気づかないっていうのは個人差あると思いますけど、なってると思います。
逆に出産直前は超ハッピーになったりしますよ。よくわからない感じで。多幸感というやつですね。自分は、出産がひたすら楽しみでした。研究しようと思っていたことが、自分で経験できるんですから。
病院で「バースプラン」というのを作るんです。普通の人だったら、多分「どう産みたい」とか「旦那さんにいてほしい」とか「産んだ後に何したい」とか書くと思うんです。
私はバースプランに「血液採取してください」って書きました。自分の血中のホルモン値を知りたいのでって。
それを受け入れてくれる病院だったんですよ。
ほんとはデータポイントたくさん欲しかったんですけど、遠慮もあったし、あまりデータポイントはないんですけど。通常血液検査をするタイミングを利用して、エストロゲンとプロゲステロンという有名な女性ホルモンを検査項目として追加するということでやってもらうことができました。通常の採血より1本多く取ってもらうことになりましたけど。
これを、産前・産後と、妊娠する前に偶然血液採取をしていたので、データポイントとしては3点ですね。
ホルモン値が産後にビュッと下がるというのが見えました。
妊娠前は低いんですけど、直前がめちゃくちゃ上がるんです。産後はたった1日後ですけど、ものすごく下がってて。あーこんなにホルモン値変わるんだったら、そりゃ気分も変わるわなー、とめっちゃ納得した感じでした。n=1なのでなんとも言えないですが。
私のバースプランはそれでした。
でも、今研究で注目しているのがオキシトシンなんですけど。
ギリシャ語で「クイックバース」という意味で、促進剤とかに使われたりもするんです。そのオキシトシンの値も測っておきたかったんですけど、検査項目から外れていて取れなかったんです(泣
先生とか看護婦さんとかめっちゃ調べてもらったんですけど。
病院で検査項目からなくなった理由はわかりませんが、一般的にオキシトシンは分解されやすく、微量なのですごく測りにくいんですよ。
でも、私の半年後から、治験で測定することができるようになったんですよ。
半年後に産めばよかったー。と思いました(笑
でもオキシトシンは授乳にも関わっているので、出産後も多分高くなっているんじゃないかと思います。でも本当に、いい病院でした。
実は、子どもが生まれてからもいろいろやろうと思ってたんですけど、流石に一人目なので余裕なかったです……。
子どもの行動解析をしようと思って、出産前にラズパイRasberryPiという小型のコンピューター。カメラやセンサーを組み合わせて様々なことができる。IoTデバイスを作るときにもよく使われる。で監視カメラを作って定点で設置したり。産んだ後は全然できませんでしたけど。
コーディングもしました。結局使ってないですけど。
でも、すごい経験でした。
子ども連れて家に帰ってから1ヶ月くらい記憶がないんです。いろいろ手伝ってもらいながらあっという間でした。
1ヶ月くらいでだいぶ慣れて、そこからは赤ちゃん教室みたいなマッサージとか、そういう所に行って子育てについていろいろ勉強しました。仲良くなったお母さん達から出産の時の話なども聞けてとても有意義な時間でしたね。
みんなそれぞれ違うんですよね。なんだかんだ出産って命がけだし、思い通りにコントロールもできないし。いくらオキシトシン打ったからといってすぐに出産するとも限らないし。
促進剤がオキシトシンのこともあります。そうすると陣痛が誘導されるんですけど、それでも何日も出なくて帝王切開になった人も何人かいました。効く人と効かない人がいて出産って本当に人それぞれだな、ということが実際にわかりました。
助産師さんにもどういうところが困っているとか、どういう点が難しいかとかを教えてもらったりしていました。
今は出産前後でマウスの脳の神経回路のコネクションがどう変わるかというのを研究しています。
そうです。使用しているうちの一つの手法は、逆行感染するウイルスを使って、そのニューロンにどのニューロンから信号が来ているかというのを見ています。トランスシナプス標識法とも言います。
例えば、このあたりにウィルスを打つとします。その細胞を赤色で標識して、逆行感染した入力側を緑で標識すると、こういう感じになります。
そうです。打った方は緑と赤が出るんで、黄色に見えますけど。他の領域にも緑がポツポツと見えるので、入力元が色々ある、ということで、この細胞とこの細胞がつながっている、というのが見えるようになるんです。
やりたいのは、出産の前後で神経細胞の接続に変化があるんじゃないかと考えています。出産って、今まで体の中で大事に育ててきた赤ちゃんを、外界へ出すという全く逆の行動をするわけで、体全体で様々に変化があります。脳の神経回路も大きく変わっているのではないかと。
私自身も出産前後で考え方も変わったような気もしますし、子育て行動へつながる脳回路の変化にも興味を持っています。
たくさんマウスに出産させているところです。もう少しで結果が出るかなー、というところですね。
保育園がない週末や祝日は、予定をしっかり組んでおかないと大変です。
実は、オキシトシン発現細胞が脳内でどういうことしているのかは最近は社会行動に関して注目がされていて、コネクションなども調べられているのですが、出産に関してはまだやられていないことも多いと思っています。
オキシトシンのよく知られている機能としては、脳や子宮で作られて血中に放出されて子宮を収縮させる、ということです。これについては、非常に古くから知られていて、オキシトシンの最初の論文が1906年くらいなんです。出産とオキシトシンに関しては、昔にいろんな研究がたくさんされていて。逆に最近の技術を使った論文はないんです。
古いんですよ。物質として単離されたのが1911年くらいです。1950年代には合成されて。最近脳内でもオキシトシンが機能しているらしいということが言われ始めていて。主に社会行動。子育てとか、そういう文脈でよく研究されています。
生まれた時、死ぬ時、の他で一番大きく体が変わるのが出産だと思うんです。体の構造も変わるし、変化を捉えるには非常に良いと思うんです。
そうですね。でも他の女性研究者に聞くと、出産関係の研究を始めたら子どもができた、という人が結構いて。なんか、そのジンクスに結果として入っちゃった感じですね。
でも自分の経験も通してサイエンスができるのは、女性だからというのもあって、とても楽しくやっています。
本当にサイエンスが好きなんだなー、という笑ってばかりのインタビューでした。まさか自分の体や子どもを観察対象にするとは。でも、教育学者のブルーナも自分の子どもを観察対象にしていたなぁ。自分に身近なことを科学するというのもとても大切なことだな、と改めて思いました。
今回は、案外解説が少ないのでご不明な点はお問い合わせください。
理研OBで現在は神戸を中心に活動する事業開発人。分析化学、光学、バイオテクノロジー、ITなど幅広いバックグラウンドを持つ。理研をはじめとするアカデミアの技術・アイデアを事業にするため、アイデアを共有する場の開催から、資金調達、事業戦略立案など、さまざまな活動を行っている。
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