宇野 雅晴
理化学研究所生命機能科学研究センター 老化分子生物学研究チーム 研究員
京都大学生命科学研究科で博士号取得。その後理研BDRに移り、線虫を使った老化の研究に没頭。趣味は読書。師匠の博識に負けじと読み始め、最近は、小説、哲学書、科学書など分野の異なる書籍を同時に5冊程度読む。
冬眠研究の砂川さんから、次にインタビューしたらおもしろそうな人として紹介されたのが、今回の宇野さん。どうやら線虫で老化の研究をしているらしい。なんで線虫なんだろう?そんなことを思いつつ早速ネホリハホリ聞きに行ってきました。(聞き手:薬師寺秀樹)
理化学研究所生命機能科学研究センター 老化分子生物学研究チーム 研究員
京都大学生命科学研究科で博士号取得。その後理研BDRに移り、線虫を使った老化の研究に没頭。趣味は読書。師匠の博識に負けじと読み始め、最近は、小説、哲学書、科学書など分野の異なる書籍を同時に5冊程度読む。
線虫を使った個体の老化と環境適応について研究しています。
生きている間にも環境はどんどん変わっていきます。生命はそれに対応していかないといけないわけです。例えば、分かりやすいのは気温や食事の量ですね。これらが寿命にどう影響するかというのを見ています。
もちろん違うところは違うんですけど、線虫とヒトの間で保存されている遺伝子もたくさんありますし、実際多く見つかっています。それでヒトにも応用できると考えられています。
先日、発表したinsulin signaling pathwayなんかは哺乳類でも保存されています。働き方が線虫と哺乳類では少し違うようですけど。
ぼくらは個体としては成熟している状態ですよね。なので、この後がどうなっていくのか、というのは身近な課題だと思うんですよ。
なんで生まれてきたのに死なないといけないのか不思議じゃないですか?そんなことが分かるんだったらすごくないですか?
老化は進化論的にはあまり制御されていないとかつては考えられていたと思うんです。というのも、進化というのはより多く、確実に子孫を残す方向に進むと考えられます。その考え方によると、老化というのは子孫を残す繁殖の後に個体に起こるプロセスなので、わざわざ寿命が延びるように進化が進まないのではないか、と考えられます。単純に体が衰えていくわけなので、そんなところに制御が効いているとは考えにくいわけです。

例えば、daf-2という遺伝子があって、これに変異を入れると寿命が2〜3倍に延びます。
DAF-2の下流はシグナルカスケードになっていていろんな遺伝子があるんですけど、その下にDAF-16というのがあります。daf-2に加えてdaf-16遺伝子にも変異を入れた二重変異体というのを作ると、これは寿命が元の長さに戻るんです。
DAF-2はIGF-1という成長因子のレセプターで、DAF-16はFOXOという転写因子として哺乳類に保存されています。
このように、寿命の変化を指標に老化制御に関わる因子を探索しています。
地球上の線虫の総重量は生物の中で一番重い、とも言われるくらいたくさん、世界中のどこにでもいて、何でも食べます。ぼくらは大腸菌で飼育していますが、ドッグフードで飼育している研究者もいます。木を食べたりもします。
何でも食べますし、エサがあると口をパクパクさせてずーっと食べてます。その状態だと寿命は1カ月くらいです。
そんな線虫に食事制限(エサを与えない時期)を加えると、寿命が倍くらいに延びるということが分かっています。なので、遺伝的背景と食事制限を掛け合わせるとどうなるかということを研究しています。
例えば、daf-2変異体は寿命が延びるというお話をしましたが、食事制限をするとさらに延びます。でも、野生型の線虫に食事制限を加えたときほどには延びないんです。
DAF-2は、インスリン/IGF-1(インスリン様成長因子)の受容体なので、食事制限による寿命延長の仕組みの一つとしてインスリンや成長因子の経路が関わっているということが示唆されて、寿命と代謝が関わっているというふうにつながっていきます。
ヒ素や過酸化水素水を使った酸化ストレスというのもやっていますし、浸透圧というのもやっています。
簡単に言うと、飼育環境の塩濃度を上げてやります。要は、塩水の濃度を上げるってことなんですけど、これがなかなか面白くてですね。弱いストレスを与え続けていると、強い致死性のストレスに強くなる、という現象があります。
それはそんなに簡単な話じゃないんです。というのは、線虫は食べなくても生きていけるんです。
そうなんですが、ちょっと複雑で。線虫の発生の途中で、食事制限をするとダウワーという状態になって、3カ月くらい生き抜くんです。全身をクチクラ層という堅い殻で覆って、外界からのストレスにも強くなります。そして、食料が来ると、また食べて成長を再開します。
エサを探す感覚ニューロンは外に出ていて、匂いで分かるんです。がんの早期検査に線虫を使うというのがニュースになりましたよね。そのくらい線虫は匂いに対する感覚が鋭く、犬より優れているとも言われています。
実は、最初から線虫で老化の研究をしようと思っていたわけではないんです。京都大学の研究室に入った時に先輩たちの研究がとても面白くて、自分でもやってみようという気持ちになりました。気が付いたら職業としても研究者を選んでました。研究室の環境が良かったんだと思います、本当に。
BDRも発生、再生、構造といった生物学からAIや数理モデルの話までさまざまな分野があるのがいいですね。センター内で開催されているセミナーなんかも、毎回面白くてしょうがないんですよね。
そうなんですよ!線虫の寿命って白金線っていう細い棒みたいなものでつついて、動いたら「生きてる」動かなかったら「死んでる」という超アナログな指標で測るんです。調子のいい時は1日1,000匹くらいできますが、あまり効率が良くないですよね。そこで、マルチウェルプレートで線虫を1匹ずつ飼って、毎日写真を撮ってその画像から線虫の生死を解析する手法を他の研究者と開発中です。
さらに、線虫は体が透けているので、言ってみればCTを取っているような状態なんです。毎日写真を撮ってやると内臓の状態がどうなっているか、というのを追跡することもできるようになります。そうすると今までとは違う特徴が見えてくるんじゃないか、と期待しています。
老化研究の難しさは、個体差が大きいというところなんですよね。
例えば、生まれて10日目の線虫の中にも、あと5日しか生きられない個体と10日生きる個体がいるので、ごちゃ混ぜの状態で解析するしかないんです。それだと何を見てるのか分からなくなるじゃないですか。これは人間の場合も同じですよね。同じ誕生日だからといって、寿命が同じとは限らない。それを残りの寿命が5日と10日の個体で比較することで見えることがあるんじゃないかと思うんです。まだ、考え中なんですけど。
老化は、食事もそうですが関わる要因が多いですし、遺伝的要因もあり、個体差が大きいので、いきなり一足飛びにマウスやヒトのような高等生物の理解はできないと思うんです。これまでに線虫で分かっていることも、実は線虫のライフステージにおける一時期の現象かもしれません。毎日写真を撮るというのは、そういうのをまずはきちんと書き下して理解したいと思っているからなんです。なので、まずは線虫で徹底的に老化を理解する、ということを目指しています。
先輩がかっこよくて研究者を目指すようになった、というのが印象的でした。自分の研究とは直接関係なくても素直に面白いと思えるマインドが、新しい発見を生むのかもしれません。また、どうしても一足飛びにいろいろやりたくなるところ、コツコツと一歩一歩という堅実なアプローチにとても感銘を受けました。
理研OBで現在は神戸を中心に活動する事業開発人。分析化学、光学、バイオテクノロジー、ITなど幅広いバックグラウンドを持つ。理研をはじめとするアカデミアの技術・アイデアを事業にするため、アイデアを共有する場の開催から、資金調達、事業戦略立案など、さまざまな活動を行っている。
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